キーンコーンカーンコーン
チャイムがなり、体育の授業を終えた俺たちは教室へと向かう為靴を履き替える。
「つっかれたー体育ってまじで疲れるわ」
「そう言いながらちゃんとユズは体育するよね」
「そりゃ授業だからな」
「真面目…本当に見た目に反して真面目」
「あ"?なんか言ったか?」
「いや、なーんにも」
忠治と下らない話をしながらジャージのズボンのポケットに手を突っ込みながら廊下をふたりで歩く。
すると目の前から海晴が走って来るのが見えた。
「おおい!海晴!」
声をかけるが俺たちの横を素通りする海晴。
「海晴!」
もう一度声をかける。
「あ、柚希、忠治!ごめん今日も先帰るわ!」
「は?なんで」
「真雪の家行ってくる!」
それだけ言って海晴は行ってしまった。
「また、振られたね」
「変な言い方すんな」
忠治の言葉にいらっとしつつ、最近 海晴は彼方を優先する事が増えたような気がする。それが何だか俺には面白くない。
「あの様子じゃ、彼方おちかた学校休んだんだろうね」
「だな」
「海晴って優しいよね」
忠治の言葉に頷く。
本当に海晴は優しいんだ。
優しいから心配なんだ。彼方の隣に居ることで何かに巻き込まれるんじゃないかって怖いんだ。
さぁ…ここからどうしたものか。
気になって真雪の家の前まで来たのはいいがインターホンを押していいものか躊躇する。寝てたら起こしてしまっては申し訳が立たない。ノックして、反応なかったら帰るか?そもそも起きていてもノックの音って聞こえるのか?そんな事をぐるぐる考えながらどうしようかと考えていると…
「あ…」
声が聞こえた。
その声の方を見ると、アパートの廊下の先に両手に買い物袋を持っている橘が立っていた。
「あ…」
「今日も来てくれたの?」
「…まあ、様子見に?」
「…そう インターホン鳴らした?」
「寝てたら申し訳ないなと思ってまだ」
「あぁ…、真雪起きてるわよ さっきメッセージ送ったら既読着いたから」
そう言って橘は遠慮せずインターホンを鳴らす。
「真雪ー!来たわよー!開けてー!」
すると中からバタンドタンと音が聞こえ勢いよく玄関の扉が開いた。
「澄麗!来なくていいって何度も…」
長袖のTシャツにスウェットの真雪とバチっと目が合う。
「よっ」
挨拶をするが真雪の目はまん丸く見開き驚いた様子。
「か、梶野くん…なんで」
「入るわよ、お邪魔します」
そんな真雪にお構い無しに真雪を押しのけ入っていく橘。さすが付き合い長いだけある。
「様子どうかなって、どう?大丈夫か?」
「…あ、」
「そんな玄関で話さないで、入りなさいよ」
橘は玄関で話す俺たちに家の中に入るように諭す。
「自分家みたいな言い方して…」
「私の家でもあるわよ、誰が契約したと思ってるの。ほら、海晴さん入って」
そのやり取りを見て、俺は真雪の顔を見る。
「…どうぞ」
「ん、お邪魔します」
靴を脱ぎ部屋に入る。
「ねぇ、真雪、ご飯食べてないでしょ ほら色々買ってきたのよ、日持ちするの」
「だからこんな食べれないって」
橘は買ってきたものをキッチンのスペースに並べ始める。
ふたりであーだこーだ言い合うふたり。
学校で見る真雪とは違った一面が見れて、こんなにも表情豊かなのだと知る。
その様子を少し眺め、真雪の体調は比較的良さそうだし、俺はふたりに声をかけた。
「俺帰るわ」
「「え"っ」」
ふたりが一斉に俺の方を見る。
ふたりして目を見開き驚いた顔をしていてちょっと笑った。
「真雪の様子見に来ただけだし、元気そうだから安心した。橘もいるし、帰るわ」
「ぁ…そう?」
真雪のその返事に橘は真雪の腕を肘で小突く。
俺は玄関へ続く廊下を歩き、靴を履く。
すると後ろから制服のシャツを引っ張られる。
「梶野くん」
後ろから真雪の声がした。
振り返ると真雪が立っていた。
「昨日は、ありがとう 食べ物も」
「あぁ、いいよ 全然、体調良さそうで良かった」
「うん。ぁ、お金!お金返すよ いくらだった?」
手には財布が握られていて、申し訳なさそうな顔をしている。逆に気を使わせてしまった…と反省した。
「いいよ、俺がしたくてした事だし」
「でも…」
「いいの、いいの 俺の善意だと思って受け取って…」
「んー」
何か納得がいかない真雪。
「…俺が何かあった時は頼むわ」
そう言うと真雪は渋々「わかった」と返事した。困った時はお互い様だ。
「じゃあ、明日学校で」
「うん、また明日 本当にありがとう」
「おう」
そう言って真雪の家を後にした。
梶野くんの帰りを見送り、リビングに戻る。
「ぇ、本当に帰っちゃったの?海晴さん」
「うん、帰ったよ」
「私お邪魔だったかしら…」
澄麗は顎に手を当て考えるように言う。
「違うから…そうじゃないから」
「でも、今日も来てくれるなんて本当に海晴さんって優しい人ね」
「ん、だね」
俺はベッドの上に座る。
「良かったわ、真雪に友達が出来て」
「…友達」
俺はボソッと呟いた。
「友達じゃないの?」
「…友達だよ…」
友達…。友達だ。梶野くんは友達だ。
俺はゴソゴソっと布団の中へ潜る。
「寝るの?」
「うん、ちょっと」
「宿題しててもいい?」
「どうぞ」
梶野くんは友達だ。
自分に言い聞かせるように心の中で呟く。
インターホンが鳴り玄関の扉を開けた時、梶野くんがそこにいて俺は嬉しいと思ってしまった。そう思ってしまったのは確かだ。


