雪が溶ける頃に


「じゃあ、私はこっちだから」
「うん、じゃーな」

海晴(かいせい)さんは私に片手をひょいと上げ私とは反対の方向へと歩いて行った。
私は少し海晴(かいせい)さんの後ろ姿を眺める。少し、似ている気がした…。 朱雨(しゅう)に…。
私は自分の家へと帰るため海晴(かいせい)さんとは反対の方向へと歩き出す。

空はもうすっかり真っ暗で、少しだけ星が光る。

熱を出した真雪(まゆき)の事が心配でメッセージだけ入れる。明日の朝には返事返ってくるでしょう。あの子は連絡だけは朱雨(しゅう)と違ってちゃんと返してくれるから…。
傍に海晴(かいせい)さんが居てくれてるなら私も安心。朱雨(しゅう)が亡くなってから真雪(まゆき)は妙に落ち着いていて、私の前では一度も泣いていない。
もしかしたらひとりで泣いて居るのかもしれないけど…。そんな真雪(まゆき)がどこか危なかっしくて私は怖い。


…怖いのよ。本当に…。

…嵐の前の静けさ…みたいで。


ところで海晴(かいせい)さんは朱雨(しゅう)が亡くなっている事知っているのかしら。
ふたりが付き合っていた事は知っているみたいだったけど…。真雪(まゆき)が何処まで話しているか分からない以上私からは何も言えない。

私は考えるのを辞めて帰路に着いた。















静かな部屋で意識が覚醒していく。
薄らと目を開けると部屋の中は真っ暗で、少し開いたカーテンからは月明かりが差す。
まだ、頭は痛いが少しマシになった気がする。
そういや…あれ…今何時?
俺は手探りで携帯を探すがそれらしきものは手に触れない。

あー、そうだ。カバンの中だ。

帰ってきてそのままベッドにダイブしたから携帯はカバンの中にある。

月明かりだけを頼りに壁を伝い電気のスイッチを探す。カチッと音がして、電気がついた。
急に明るくなった部屋に一瞬クラっと目眩がした。

「……ぁ」


俺は部屋のローテーブルに目がいった。
テーブルの上にはパウチのお粥が数個と冷えピタ、そしてスポーツドリンクなどが並んでいる。

「…何これ」


そしてもうひとつ…メモがあった。
そこには 【食べれそうなら食べて。冷蔵庫にゼリーとか入れてる。あと水分補給しっかりするように】とだけ殴り書きで書いてある。俺はその場にずるずると足の力が抜けたようにしゃがむ。


「…はぁ…おせっかいすぎ」


彼が俺のためにこんな事までしてくれる。
その事に何だか心がくすぐったくなって、身体が熱くなる。熱上がりそう…。
学校行ったら、お礼言わなくちゃな…俺はカバンから携帯を取り出した。液晶画面にはメッセージ1件の文字。澄麗(すみれ)からだ。


【熱は大丈夫?明日は学校終わったら様子見に行くわ。】

なんで熱のこと知ってんの?

【あと、海晴(かいせい)さんに会ったわ。いい人ね。】


「…は?」


思わず声が出た。
何で 澄麗(すみれ)梶野(かじの)くんの事知ってるんだよ!
会ったって何?え?俺は速攻 澄麗(すみれ)に連絡した。


『もしもし』
「もしもし?澄麗(すみれ)?あのさ」
真雪(まゆき)、熱は大丈夫?』
「だ、大丈夫!大丈夫なんだけど、なに今日 梶野(かじの)くんと会ったの?」
『えぇ…あなたの家の前でばったり』
「はぁ…今日も来てたの…」

澄麗(すみれ)は俺の事が心配らしく、学校帰りほぼ毎日俺の家に来ては様子だけ見て帰る。


「…何か話した?」
『特に何も』

ぶっきらぼうな言い方はいつもの事だ。


「あ…そう」
真雪(まゆき)
「なに」
『明日学校休むの?』
「あー…多分?」
『そう、分かった 明日家に行くわね』
「え、いいよ 別…」

ツーッツーッツーッ

切れた…。まだ言い終わってない…。

澄麗(すみれ)はいつもこうだ。自分の言いたいことだけ言って…一方的。まあ、それは俺と朱雨(しゅう)にだけだろうけど…。
俺はポイッと携帯をベッドに投げ自分もベッドに横になる。
なんか、疲れた。俺はまた眠りについた。