梶野くんに支えて貰いながらやっと家に着いた。
学校から徒歩15分の所を30分かけてやっとたどり着いた。身体はもう限界を迎えていて、頭はズキズキと痛む。
「お邪魔しまーす」
「…どうぞ」
梶野くんが俺の部屋を興味津々に見渡しながら靴を揃え部屋へと足を踏み入れる。
部屋は朝家を出た状態で散らかっているがそんな事を気にしている暇はないくらいただただ今はベッドに潜りたかった。
ただのワンルーム、玄関から短い廊下をよろよろの足で歩き廊下と部屋を隔てる扉に手をかけ、そこからは雪崩なだれるようにベッドへとダイブした。
「ちょ、大丈夫かよ!」
ボスンっとダイブした俺に梶野くんは驚いた。
「…うん、」
俺は制服を脱ぐのもしんどくてそのままベッドに潜る。
「大丈夫じゃねーだろ、それ」
梶野くんはベッドに潜る俺に近づきそっと額に手を当てる。
ヒヤッとした梶野くんの手が気持ちいい。
「やっぱ熱上がってんな、冷えピタか氷枕ねーの?」
「…ない」
「んー、俺買ってこようか?しんどくね?」
「…ううん、いい。要らない」
「…そか」
「梶野くん」
「ん?」
俺は名前を呼んだ。
きっとこんな事言ったのは熱のせいだ。
「梶野くんの手冷たくて気持ちいいから、ほっぺ触って…」
「………」
梶野くんは少し戸惑いながらも頬に手を当ててくれた。
それがヒヤッとして気持ちよくて、火照った身体には心地が良かった。
「………」
「…はぁ…」
その冷たさに酔いしれていると梶野くんは口を開いた。
「…真雪」
「…?」
「…お前いつも魘されてんの?」
その言葉の意味が一瞬分からなかった。
魘されてる…。あぁ、そうか。
最近寝た気がしないのは、魘されているからか…。魘されている自覚はなかった。
「…魘されてた?」
「うん、すげぇしんどそうだった」
「…そっか」
あの夢のせいで俺は魘されているのか。
寝た気がしないのは魘されているせいか。納得だ。
「…なんか、夢でも見てんの?」
梶野くんのその言葉にピクっと身体が反応した。
「…覚えてない」
嘘だった。本当は全部覚えてる。
暗い空間に朱雨が出てきて、名前を必死に読んでも反応しない。走って朱雨の所へ向かうが一向に近づかない。そして最後は消える。
そんな夢をここ最近ずっと見るんだ。
これは俺への罰なんだと思う。
「…そか。今は眠れそう?」
「…多分」
正直眠った後が問題だ。
眠りに着けても夢を見てしまっていたら魘されて寝た気がしない。
でも、もうなんか今日は限界だ。
「…眠りにつくまで俺いるから」
「……」
限界だった俺はその言葉を聞いて瞼を閉じた。
すぅすぅと寝息を立てる真雪。
頬には俺の手、その俺の手首をぎゅっと握りながら眠りについた真雪は俺の目になんだか少し幼く写った。相当しんどいんだろうな…。
真雪は制服のままでベッドに潜っていた。
保健室で魘されていた様子を見て、また魘されるんじゃないかと少し様子を見る。手首を掴まれているせいかで身動きが取れないが、まあそんな事は真雪の寝顔を見ているとどうでも良かった。
とりあえず今は魘されずゆっくり寝て欲しい、ただそれだけだった。
する事もない俺はゆっくりと真雪の部屋を見渡す。
台所とベッドとローテーブルしかない質素なワンルーム。収納は簡易的なカラーボックスが二つ並んでおりそこに教科書やら数冊の漫画が並んでいた。
カラーボックスの上には時計や卓上カレンダーが置いてあり、そこに何か1枚の紙が置いてある。
俺はもう完全に眠ってしまい緩くなった真雪の手を解き立ち上がり、その紙を手に取る。ほんの出来心だった。
そこには真雪と知らない目つきの悪い金髪の男の姿。写真だ。
誰かも分からないその男に俺は一瞬で誰だか分かってしまった。真雪の肩を抱き、撮られた写真。
こいつが朱雨か…。
その写真を見た時、胸がチクリと痛くなった。
俺はなんだか見てはいけないものを見てしまった感覚になり、サッと元あった場所に写真を戻した。
少し真雪の様子を見て、魘される気配はなく必要な物を買いに部屋を出た。
外はもう暗くなり始めていて、熱があっても食べられそうな物を買いにスーパーへと向かい、適当に買って真雪の家へ戻った。
そっと玄関の扉を開け、部屋にいる真雪を確認するがまだ気持ちよさそうに寝ている。
良かった、魘されてない。
適当に買ってきた物を冷蔵庫に入れ、ローテーブルの上にメモを置き、その日は真雪まゆきの家を後にした。


