『毒鳥・ピーチ』とは。
 肘から指先ぐらいまでの体長……おそらくは鷹やフクロウぐらいのサイズ。
 つまり大きめ。色はオレンジと紫でまだら模様。嘴は銅色。
 想像しただけで危なさそう。
 (ピーチ)の欠片もなかった。
 全身に毒、血液にも毒を持っている。
 なので討伐の仕方は魔法が推奨される。
 一番いいのは火属性。水や土、闇や光で弱らせてからというのもあり。
 風で傷つけてしまうのが一番よくない。
 大体の人は無属性をのぞいても二属性は持っているとされるので、得意ではなくとも風属性以外を使うことになる。
 私も火属性か闇属性を使うことになる
 今回討伐対象となったのは、鳥自体が危険ということもあるが、この森の奥地に繁殖してしまっているらしい。


「今回の作戦は、ギルドと魔術師団と協力のもと執り行う。作戦を説明する」


 ずらりと並んだ大人たちが整列し、緊張感が漂う。
 ギルドや魔術師団たちが土属性の魔法で地震を起こし、ターゲットであるピーチを飛び上らせる。
 飛び上ったピーチは生徒たちが魔法で狙い撃つという。
 動くものを狙い撃つ、というのは、オリエンテーションでやったような状況と似ている。
 他の動物・魔物たちは一応対象から外し、なるべく攻撃はしないようにとのこと。


「森の入り口にグループごとに配置。三人ずつ前衛・後衛を交代しながら行うように」


 はい、と生徒のやる気に満ち溢れた声が揃う。
 憧れの人たちを目の当たりにしていたこともあり、テンションは最高潮だ。
 ここで配置につくかと思ったが、ギルドと魔術師団から長の紹介があるらしい。
 見知った人と、ローブを着て暗い雰囲気の人と二人、先生の隣に並ぶ。


「王城の魔術師団から来ました、団長のアオイ・ベイトです。協力して頑張りましょう」


 甘いマスクで、甘い声で、優しく気遣う優男、アオイさん。
 女子たちの黄色い声に交じって女性ではない声も聞こえる。
 老若男女、人気なようだ。
 歓声に一礼して優雅に答える様子が、また優雅。
 続いて、隣の人に視線が集まる。


「ギルド代表。コモ」


 ……。
 以上のようだ
 ローブと大きい襟で顔はほぼ見えず、さらに襟を持ち上げていたせいで顔の三分の一も見えなかった。
 ちらりと見えた髪と目が桃色っぽくて可愛らしさを感じたけれど、性格は真逆のようだ。
 アオイさんとの違いが大きくて、他の生徒たちも反応を忘れて、口を一本に結んでいる子が多い。


「コモくんはこんな感じだけど、仕事は早いしすごい魔法も使えるから、みんな安心してねー!」
「……重い」


 唐突にアオイさんが肩を組みだし、明るくアピールする。
 二人は知り合いなのか、どちらも慣れたように会話している。
 その雰囲気に安心したのか、生徒の表情は緩んでいた。


「お前ら、終わったならさっさと行けよ」
「ヒィくんつめたーい」
「うるせえさっさとしろ」
「……重い」


 あれ、ヒイラギ先生も知り合いなのかな。
 話し方が他人行儀ではない。
 促された二人は一方的に肩を組んだまま、先に配置につきに行った。
 先生は一つ大きくため息をついて二人を見送り、気を取り直して私たちに向き直る。


「そもそもあいつらはここに派遣されるような奴らだ。力は確かだから、安心して挑め。それともう一つ」


 人差し指を立てて、見渡す。
 無音の時間が流れることによって、先生の次の言葉に注目が集まる。


「昨日、ライラとナオとセンが、森の中で大穴を見つけている」


 騒めきが起こる。
 さっきまでの雰囲気は一転して、不安気な声がそこかしこから上がっている。
 それをかき消すように、乾いた音が響いた。


「その報告により、ギルドと魔術師団にも連絡が取れ、もしもの時に備えることができている。全員、ライラたちのように何か異変を感じたらすぐ言うように」


 頼もしい言葉を聞いて、生徒たちは安心を取り戻した顔をする。
 強い人たちがいてくれる、備えてくれている、守ってくれている。
 それが分かっただけで、心構えはだいぶ違う。
 そして敢えて名前を出したことは、ライラさんがオリエンテーションで生徒を怖がらせてしまった時のことを挽回するためと勝手ながら思う。


「……終わったと思っても、最後まで気を抜くな。焦るな。落ち着いて挑め」


 激励なのか、注意喚起なのか。
 不穏な言葉にもとれるそれを胸に秘め、討伐準備に取り掛かった。





 ―――――……





 配置につき、開始の合図を待つ。
 配置はグループごとにまとまって、一直線に配置されている。
 両端はそれぞれギルドと魔術師団がいる。
 しかし長であるアオイさんとコモさんは生徒たちの正面にいて、念話で連携を図るようだ。
 仕事中のアオイさんを見ることはあまりなかったので、指示出しをしている姿は少し新鮮。

 私たちのグループでは、火属性を使えるのは私とライラさん。
 土属性はマリーさんとセンさん、水属性はシオンとナオさん。
 組み合わせは私、センさん、シオンが前衛。
 ライラさん、マリーさん、ナオさんが後衛となった。