今日の授業はもうないので、もう少しここにいようということになった。
ナオさんが目を覚ましたらみんなで帰ろう、と。
落ち込んでいるライラさんに声をかけることができず、背中をさするしかできなかった。
私がいることにも気付いていなかったライラさんは驚いた顔をして、悲し気に「ありがとう」と言って笑った。
逆に気を遣わせてしまったかもしれない。
気の利いた言葉も、行動もできないと、もどかしい。
夢の中でも、手遅れだったり、難しい状況だったり、進行性の病気だったり。
そういう人と関わっていたときは、今みたいに重い気持ちになっていたこともあったな。
「ヒスイ。手伝ってくれ」
保健室を家探ししているような状況のシオンから、声をかけられる。
この人は足のこともあるのか。
背中をさする手を放し、離れた。
「なんですか?」
「冷やしたいんだが、どこにあるのかわからない」
「診てもいいですか」
「ああ」
椅子に座ったシオンの足を確認する。
若干熱を持っているが、腫れてはいない。
動かすと少し痛むようだが、冷やして様子見か。
「痛いなら無理はしないで、座って待っててください」
「……痛くない」
「体、強張ってましたよ」
「お前がいきなり動かすからだ!」
「痛かったんじゃないですか」
「っ、早くしろよ!」
素直じゃないなあ。と息が漏れる。
ロアさんのツンケン具合よりはまだ優しいけど。
冷蔵庫から保冷剤、畳まれた清潔そうなタオルを拝借。
タオルで保冷剤を包んで渡した。
「それを患部に当てててください」
「慣れてるなと思ったが、そういえば医術師の見習いだったな」
シオンは、私が医術師の見習い、ということしか知らない。
予め殿下から私のことについての説明はあったのだが、スグサさんや研究のことは話さなかったと。
同級生、ただそれだけの関係で付き合っていってほしい、というのは殿下と私と双方の願いではあった。
先入観があるとどうしても身構えてしまう。
というのは私が身を持って体感してしまっていたし。
やはり、教えないで良かったと思う。
一人は寝てて、一人は黙ったまま座ってて、一人は黙ったまま座って足を冷やしてて。
どれくらいの時間が過ぎても、その状況は変わらなかった。
シオンの足の痛みが引いたところで、私とシオンは退出する。
ライラさんは、ナオさんが目を覚ますまでいると。動く様子は全くなかった。
廊下を出て、シオンが話し始める。
「ライラは魔力は強いが、感情や行動、魔力のコントロールが苦手なんだ。ナオは逆で、魔力は弱いがコントロールはめちゃくちゃ上手い。感情と行動が控えめなのは性格みたいだが」
双子は、それぞれ欠点を持った生まれてくると聞いたことがある。
それが本当かどうかまではわからないけど、二人も欠点を持ちながら、二人合わせて二で割ればちょうど良く生まれたようだ。
「ライラの素直で真っ直ぐなところはいいと思ってる。ナオも無理をしてでもライラをカバーしようとしてて、仲は良い奴らだよ。だけど、怪我をさせたり、ナオもああやって倒れることがあって、クラス内での評判はあんまりなんだよ」
確かに、属性の種類もあって、怪我をしても可笑しくはない。
むしろ怪我で済めばいいぐらいだった。
クラスや二人の言う「また」というのは、こういうことかと腑に落ちた。
「お前も、付き合い方を考えろよ」
言い方は冷たいが、これは私に気を遣ってくれてるんだなと、すぐにわかった。
この人は二人の近くにいるのに、私には考えろというのは、少し無理があるようにも思う。
「クラスのことはよく知らないので、少しでも知っているライラさんたちと一緒にいたいです。ライラさんって優しいし、明るいし、楽しいし」
「……あっそ」
不愛想で頑固だけど、不器用で友達思いなのが第三王子らしい。
私に対してつっけんどんな言い方をするのは、不器用ゆえなのだろう。
不器用ながらに、心配してくれているのだと思う。
「二人は遠足行けるんですかね」
「先生が、後日それを賭けた勝負をするって言ってた」
「そうなんですか。頑張ってほしいですね」
返事は聞こえなかったけど、目の端っこで、微かに頷いたのがわかった。
この人も、二人と居たくて一緒にいるんだろうな。
保健室に先生がいなくても、冷やすだけのために保健室に滞在して、自分のことの前にライラさんたちの様子を見に行くぐらいだし。
そして後日、ライラさんと、すっかり本調子のナオさんも含め、同様の風船を使った授業が行われた。
壁越しにライラさんとナオさんが風船を守り、生徒が周囲から魔法を放つ。
今回は『無属性限定』というルールが追加され、危険度は軽減された。
結果、二人は何とかやり遂げ、遠足行きの切符を手に入れることができた。
飛び跳ねて喜ぶライラさんと、抱き着かれるナオさんは、本当に仲のいい双子に見えた。
ナオさんが目を覚ましたらみんなで帰ろう、と。
落ち込んでいるライラさんに声をかけることができず、背中をさするしかできなかった。
私がいることにも気付いていなかったライラさんは驚いた顔をして、悲し気に「ありがとう」と言って笑った。
逆に気を遣わせてしまったかもしれない。
気の利いた言葉も、行動もできないと、もどかしい。
夢の中でも、手遅れだったり、難しい状況だったり、進行性の病気だったり。
そういう人と関わっていたときは、今みたいに重い気持ちになっていたこともあったな。
「ヒスイ。手伝ってくれ」
保健室を家探ししているような状況のシオンから、声をかけられる。
この人は足のこともあるのか。
背中をさする手を放し、離れた。
「なんですか?」
「冷やしたいんだが、どこにあるのかわからない」
「診てもいいですか」
「ああ」
椅子に座ったシオンの足を確認する。
若干熱を持っているが、腫れてはいない。
動かすと少し痛むようだが、冷やして様子見か。
「痛いなら無理はしないで、座って待っててください」
「……痛くない」
「体、強張ってましたよ」
「お前がいきなり動かすからだ!」
「痛かったんじゃないですか」
「っ、早くしろよ!」
素直じゃないなあ。と息が漏れる。
ロアさんのツンケン具合よりはまだ優しいけど。
冷蔵庫から保冷剤、畳まれた清潔そうなタオルを拝借。
タオルで保冷剤を包んで渡した。
「それを患部に当てててください」
「慣れてるなと思ったが、そういえば医術師の見習いだったな」
シオンは、私が医術師の見習い、ということしか知らない。
予め殿下から私のことについての説明はあったのだが、スグサさんや研究のことは話さなかったと。
同級生、ただそれだけの関係で付き合っていってほしい、というのは殿下と私と双方の願いではあった。
先入観があるとどうしても身構えてしまう。
というのは私が身を持って体感してしまっていたし。
やはり、教えないで良かったと思う。
一人は寝てて、一人は黙ったまま座ってて、一人は黙ったまま座って足を冷やしてて。
どれくらいの時間が過ぎても、その状況は変わらなかった。
シオンの足の痛みが引いたところで、私とシオンは退出する。
ライラさんは、ナオさんが目を覚ますまでいると。動く様子は全くなかった。
廊下を出て、シオンが話し始める。
「ライラは魔力は強いが、感情や行動、魔力のコントロールが苦手なんだ。ナオは逆で、魔力は弱いがコントロールはめちゃくちゃ上手い。感情と行動が控えめなのは性格みたいだが」
双子は、それぞれ欠点を持った生まれてくると聞いたことがある。
それが本当かどうかまではわからないけど、二人も欠点を持ちながら、二人合わせて二で割ればちょうど良く生まれたようだ。
「ライラの素直で真っ直ぐなところはいいと思ってる。ナオも無理をしてでもライラをカバーしようとしてて、仲は良い奴らだよ。だけど、怪我をさせたり、ナオもああやって倒れることがあって、クラス内での評判はあんまりなんだよ」
確かに、属性の種類もあって、怪我をしても可笑しくはない。
むしろ怪我で済めばいいぐらいだった。
クラスや二人の言う「また」というのは、こういうことかと腑に落ちた。
「お前も、付き合い方を考えろよ」
言い方は冷たいが、これは私に気を遣ってくれてるんだなと、すぐにわかった。
この人は二人の近くにいるのに、私には考えろというのは、少し無理があるようにも思う。
「クラスのことはよく知らないので、少しでも知っているライラさんたちと一緒にいたいです。ライラさんって優しいし、明るいし、楽しいし」
「……あっそ」
不愛想で頑固だけど、不器用で友達思いなのが第三王子らしい。
私に対してつっけんどんな言い方をするのは、不器用ゆえなのだろう。
不器用ながらに、心配してくれているのだと思う。
「二人は遠足行けるんですかね」
「先生が、後日それを賭けた勝負をするって言ってた」
「そうなんですか。頑張ってほしいですね」
返事は聞こえなかったけど、目の端っこで、微かに頷いたのがわかった。
この人も、二人と居たくて一緒にいるんだろうな。
保健室に先生がいなくても、冷やすだけのために保健室に滞在して、自分のことの前にライラさんたちの様子を見に行くぐらいだし。
そして後日、ライラさんと、すっかり本調子のナオさんも含め、同様の風船を使った授業が行われた。
壁越しにライラさんとナオさんが風船を守り、生徒が周囲から魔法を放つ。
今回は『無属性限定』というルールが追加され、危険度は軽減された。
結果、二人は何とかやり遂げ、遠足行きの切符を手に入れることができた。
飛び跳ねて喜ぶライラさんと、抱き着かれるナオさんは、本当に仲のいい双子に見えた。



