そしてついたのは訓練場。
ここに来たのは、殿下が校内を案内してくれた時と、編入試験を受けに来た時。
味もそっけもない訓練場だから、特に何か変わった様子もなく。
クラスの全員が入っても圧迫感を感じることもない。
恐らく全員が訓練場に入ったところで、ヒイラギ先生が出席簿を取り出す。
「さて。編入生も試験で知っていると思うが、一応。俺はヒイラギだ。編入生は前でて」
隣のライラさんに「いってらっしゃい」と声をかけられながら、小幅で歩く。
同時に動き出しているのは私の他に三人。一クラスに編入生四人、か。
「はい、一列並んでー」
先生の横に四人並んで、生徒の方を向かされる。名乗るのかと思いきや。
「手前から、マリー、セン、ヒスイ、ゴルドだ」
まとめられた。
気の抜ける語尾で「はい戻ってー」と。前に出ていた時間はほんとに数秒だった。
編入生同士の交流もなく、再びライラさんのもとへ戻る。
「おかえり!」
「た、ただいま」
にこにこと、つっこみもない。
こういう淡泊な対応はいつも通りなのか。
そして、試合のことについて説明する、と。
「やるのは俺対全員。勝敗は、俺を拘束・無力化するか、お前らが全員拘束・無力化されるかな。俺は武器のみ。お前らは魔法のみ」
一人対クラス全員と言われた時点で、生徒たちは騒めきだした。
魔法を学んでいる身とはいえ、何十人といる生徒だ。
聞こえてくる声は、先生一人だとしても楽勝、無謀と思っているようで。
「先生はねー。いっつも私たちとこういう力比べをしたがるの。一人一人見るより楽だし楽しいんだって」
「え、先生の好みでやってるんですか」
「そうなの。ああいう先生の性格的に一気に終わらせたいとか、そういう意味もあるんだろうけど」
めんどくさがりなんだって、って。
それでいいのか先生。
「遠慮はいらん。が、魔法は中級までな。危険行為をしたら即失格。わかったかシオンとロア!」
何やら地面に線を引いて囲いを作りながら、名前を読んだ瞬間に顔を上げる。
名指しされた二人は突然の大声に体を固めるのと、顔を背けるのと。
クラスの大半は「なんだなんだ」と興味深そうだが、理由がわかる身としては同情を寄せるしかない。
「俺がここに入れた奴は体は動かせても拘束とみなす。逃げるなよ」
ドロケイの監獄みたいなものか。
と一人で納得する。
動けても出てはいけないゾーン。
「じゃ、十秒後に初めるぞ」
「ヒスイ、頑張ろうね!」
先生は数を数えながら、どこからか武器を取り出す。
ライラさんの声に耳を傾けながら、先生の取り出した武器に目を奪われる。
それは武器なのか、と思うのはしょうがないと思う。
鎖。
それが先生の武器のようだ。
私の武器も大概だけど、先生のは殺傷能力とかはあまりなさそう。
鎖で殴るか締めるか?
……ああ、うん、辛いわ。
ライラさんに腕を引っ張られ、先生から距離をとる。
「あの鎖、伸びるからまずは距離をとった方が良いよ」
「え、伸びるの」
「結構伸びるよ!」
結構とは。
まだ数えている先生は長袖のシャツ来ていて、袖口から垂れ下がる鎖は先端が地面に着いて弛んでいる。
人ひとりに巻き付けるのがやっと程度の長さだが、伸びるのか、あれ。
「はい、十」
と、言った瞬間だった。
左手を大きく振ったと同時に、鎖が腰の高さで伸び、先生に一番近かった生徒数人をまとめて拘束する。
いや本当に、一人がやっとだと思ったら五・六人はまとめている。
何重にも絡みついているから、単純に五・六倍以上は伸びている。
でも右手側から垂れ下がる鎖に変化はない。
「あれが先生の武器の『特性』なんですね」
「みたいだよねー。これって断言はしてないけど、伸びることは確かだよ」
遠くから観察できてよかった。
やるならちゃんとやりたいし、自分が行く前に情報を集めさせてもらおう。
捕まえた生徒は枠の中で開放し、鎖は元の長さに戻った。
一列目の生徒がいなくなったことで、次点に近かった三人の生徒たちが魔法を使おうとしている。
「火・初級魔法!」
「光・初級魔法!」
いくつかの火の玉と光の玉が先生に向かって飛んで行く。
躱すのかと思いきや、右手を前に出し、振り回す。
鎖が高速で円を描きながら魔法の玉をかき消した。
「――――。≪大地は我々を食す≫!」
私の知っている、土の中級魔法だ。
先生の足元に地割れが起きる。
「お前らはいつもその手順だな」
先生は軽々とジャンプして避ける。
人を飛び越えられるほどのジャンプ力って何。
「鎖を地面に垂らして、バネみたいにしたんだよ。あの三人はいつもあの連携やってて、先生もいつもあんな感じに避けてるの」
「そうなんですね……」
鎖って結構幅広く使えるんだな。
使い手の技量もあってこそだけど、まず鎖を武器にしようとしたところがすごい。
「もっと他のことやってこい」
攻撃していた生徒たちの裏に行き、防御していた左腕の鎖で三人を拘束した。
拘束された三人はそのまま枠内に伸ばされる。
先生が跳んだことで、私たちとの距離が近くなった。
ここに来たのは、殿下が校内を案内してくれた時と、編入試験を受けに来た時。
味もそっけもない訓練場だから、特に何か変わった様子もなく。
クラスの全員が入っても圧迫感を感じることもない。
恐らく全員が訓練場に入ったところで、ヒイラギ先生が出席簿を取り出す。
「さて。編入生も試験で知っていると思うが、一応。俺はヒイラギだ。編入生は前でて」
隣のライラさんに「いってらっしゃい」と声をかけられながら、小幅で歩く。
同時に動き出しているのは私の他に三人。一クラスに編入生四人、か。
「はい、一列並んでー」
先生の横に四人並んで、生徒の方を向かされる。名乗るのかと思いきや。
「手前から、マリー、セン、ヒスイ、ゴルドだ」
まとめられた。
気の抜ける語尾で「はい戻ってー」と。前に出ていた時間はほんとに数秒だった。
編入生同士の交流もなく、再びライラさんのもとへ戻る。
「おかえり!」
「た、ただいま」
にこにこと、つっこみもない。
こういう淡泊な対応はいつも通りなのか。
そして、試合のことについて説明する、と。
「やるのは俺対全員。勝敗は、俺を拘束・無力化するか、お前らが全員拘束・無力化されるかな。俺は武器のみ。お前らは魔法のみ」
一人対クラス全員と言われた時点で、生徒たちは騒めきだした。
魔法を学んでいる身とはいえ、何十人といる生徒だ。
聞こえてくる声は、先生一人だとしても楽勝、無謀と思っているようで。
「先生はねー。いっつも私たちとこういう力比べをしたがるの。一人一人見るより楽だし楽しいんだって」
「え、先生の好みでやってるんですか」
「そうなの。ああいう先生の性格的に一気に終わらせたいとか、そういう意味もあるんだろうけど」
めんどくさがりなんだって、って。
それでいいのか先生。
「遠慮はいらん。が、魔法は中級までな。危険行為をしたら即失格。わかったかシオンとロア!」
何やら地面に線を引いて囲いを作りながら、名前を読んだ瞬間に顔を上げる。
名指しされた二人は突然の大声に体を固めるのと、顔を背けるのと。
クラスの大半は「なんだなんだ」と興味深そうだが、理由がわかる身としては同情を寄せるしかない。
「俺がここに入れた奴は体は動かせても拘束とみなす。逃げるなよ」
ドロケイの監獄みたいなものか。
と一人で納得する。
動けても出てはいけないゾーン。
「じゃ、十秒後に初めるぞ」
「ヒスイ、頑張ろうね!」
先生は数を数えながら、どこからか武器を取り出す。
ライラさんの声に耳を傾けながら、先生の取り出した武器に目を奪われる。
それは武器なのか、と思うのはしょうがないと思う。
鎖。
それが先生の武器のようだ。
私の武器も大概だけど、先生のは殺傷能力とかはあまりなさそう。
鎖で殴るか締めるか?
……ああ、うん、辛いわ。
ライラさんに腕を引っ張られ、先生から距離をとる。
「あの鎖、伸びるからまずは距離をとった方が良いよ」
「え、伸びるの」
「結構伸びるよ!」
結構とは。
まだ数えている先生は長袖のシャツ来ていて、袖口から垂れ下がる鎖は先端が地面に着いて弛んでいる。
人ひとりに巻き付けるのがやっと程度の長さだが、伸びるのか、あれ。
「はい、十」
と、言った瞬間だった。
左手を大きく振ったと同時に、鎖が腰の高さで伸び、先生に一番近かった生徒数人をまとめて拘束する。
いや本当に、一人がやっとだと思ったら五・六人はまとめている。
何重にも絡みついているから、単純に五・六倍以上は伸びている。
でも右手側から垂れ下がる鎖に変化はない。
「あれが先生の武器の『特性』なんですね」
「みたいだよねー。これって断言はしてないけど、伸びることは確かだよ」
遠くから観察できてよかった。
やるならちゃんとやりたいし、自分が行く前に情報を集めさせてもらおう。
捕まえた生徒は枠の中で開放し、鎖は元の長さに戻った。
一列目の生徒がいなくなったことで、次点に近かった三人の生徒たちが魔法を使おうとしている。
「火・初級魔法!」
「光・初級魔法!」
いくつかの火の玉と光の玉が先生に向かって飛んで行く。
躱すのかと思いきや、右手を前に出し、振り回す。
鎖が高速で円を描きながら魔法の玉をかき消した。
「――――。≪大地は我々を食す≫!」
私の知っている、土の中級魔法だ。
先生の足元に地割れが起きる。
「お前らはいつもその手順だな」
先生は軽々とジャンプして避ける。
人を飛び越えられるほどのジャンプ力って何。
「鎖を地面に垂らして、バネみたいにしたんだよ。あの三人はいつもあの連携やってて、先生もいつもあんな感じに避けてるの」
「そうなんですね……」
鎖って結構幅広く使えるんだな。
使い手の技量もあってこそだけど、まず鎖を武器にしようとしたところがすごい。
「もっと他のことやってこい」
攻撃していた生徒たちの裏に行き、防御していた左腕の鎖で三人を拘束した。
拘束された三人はそのまま枠内に伸ばされる。
先生が跳んだことで、私たちとの距離が近くなった。



