目を開けるとそこには、金髪が輝かしい王子様がいました。


「よう」
「こ、こんにちは……」
「さっきぶり」


 輝かしいのは金髪だけではなかった。
 朗らかに笑う顔も何やらエフェクトが見える気がする。
 王子様ってみんなこうなのかな……。


「ヒスイはどうする? 戻るか?」
「あ、っと、そうですね。戻ってお昼ご飯を食べようかと」
「お、じゃあ一緒にどうだ?」
「……殿下がよろしいのでしたら」
「よし、一緒に食べよう。伝えて来るから待っててくれ」


 机から立ち上がり、早々に出て行った。
 待ちぼうけ状態になってしまった私はどうしようかと。
 数秒考えた結果、書類の置いてある机から離れて、ソファーで座っていることにした。
 本棚の本も気になるけど、触れていい物かわからないし。
 ふと、左手に握られていた武器に気付いた。
 スグサさんがもともと使っていた物と酷似しているという針の部分はいいとして、問題は鈴の部分。
 スグサさんも知らない物。
 スグサさんは、この鈴の部分が私の武器だというけれど、どうなんだろう。


 ―― ちょうどいい。鈴に魔力流してみろよ。

「今ですか?」

 ―― 誰もいないしいいだろ。ただし、少しだけだぞ。

「……わかりました」


 鈴の部分に触れながら、魔力をほんのちょっとだけ流す。


「っ」


 瞬間、頭の中に言葉と言うか、イメージと言うか、何かが流れてきて。
 それは鈴の部分の『特性』なのだろう。


 ―― どうだった?


 あ、これはスグサさんには伝わっていないのか。
 口頭で、流れてきたイメージを伝える。
 スグサさんの顔は見えないけれど……驚いているよう。


 ―― ……それ、本当に?

「はい……」

 ―― ふーん……。


 実用的ではないと思う。
 けれど、たぶん、すごく、重要。


 ―― ちょっと考え事すっからしばらく静かにさせてくれ。その特性のことは「まだ知らない」で通しとけ。

「わ、わかりました」


 頭の中のスグサさんの気配はすーっと消えて、部屋の中でも一人になった感じ。
 自分の部屋なら特に何もないのだけど、ここは殿下の部屋だ。
 ここで誰か来たら何をしてるか怪しまれそう。
 こういう時は大人しくしているに限る。
 ということで、ソファーに座って目を閉じて、ゆっくりすること数分後。


 コンコン、コン


「待たせたな」
「あ、お帰りなさい」


 部屋の主が返ってきた。これで怪しまれない。


「メイドに伝えてきたから、この部屋で待っててくれ」
「わかりました。……あの、これ、どうしたらいいですか?」
「ん。ああ、それか」


 見た目も本質も武器なので、できればこのままにしておきたくはないなぁと。


「無属性の魔力を流せば、小ぶりな石になるぞ。俺もそうして持ち歩いてる」
「へぇー。無属性なんですね」


 早速魔力を流してみる。
 少しの輝きを放って、元の拳ほどの質量はどこへやら、小石程度の大きさになった。
 色は武器の色から、銀と言うか光る灰色になった。
 掌の上に乗せて、感動。
 魔法はいろいろと不思議な現象を見せてくれる。


「持ち歩くのにそのままじゃ不便だろ。アクセサリーに加工することが一般的だ」
「加工できるんですね。でもお金かかりそうですね……」
「そこは餞別で俺が持つ」
「え……」


 殿下には貰ってばっかりだ。
 部屋も、服も、役割も、学校も、武器も。
 寮の生活に必要な物や、教科書代や制服代も用意してくれるらしい。
 本当に、もらってばかりだ。
 私の向かい側に殿下が座った瞬間に、意を決して聞いてみよう。


「殿下」
「ん? どうした?」
「私、仕事もしたいです」
「しごと……?」
「はい。お金を稼ぎたいです」


 殿下はこういう時、茶化したりはしない。
 意表をついてしまったようだが、真面目な顔で、あごに手を当てて考え込む。
 きっと私にあった稼ぎ方を考えてくれているんだ。


「……ヒスイができるやり方は、今は二つ案がある」
「はい」
「一つはギルド。ヒスイは魔法の腕が大分上達しているから、討伐系も採取系もできるだろう。だが、もちろん危険もあるから、やるにしてもすぐに、かつ一人ではまださせられない」
「そう、ですね。私も、それ以外がいいです」
「となるともう一つの案だが、これは承諾さえ得られればすぐにでもって感じだ」


 そんなものが……?


「近いうちに確認してくる。少し待っていてくれ」
「はい。ありがとうございます」


 ギルドでやるなら、以前のウロロスの大群ほどではないにしろ、戦ったりするものもあるんだろうな。
 採取系は地道にやれそうだけど、国内も国外も詳しくは知らないから、そういう意味でもすぐには出来なさそう。
 殿下の言うもう一つのものが何かはわからないけど、それで行けそうなら、それでもやってみよう。
 アルバイトだ。
 ふん。と気合を入れる。
 くす、っと笑う声が聞こえて、


「金を稼ぐ理由は察しが付くし、止めるつもりはないが、本当に無理しすぎるなよ」
「大丈夫です。もともとは働いていた身ですから」
「そうだとしても、だ。環境がまるっきり変わって、知り合いもいなくて、何もかも初めてで辛い扱いを受けることだってあるんだ。頼ってくれた方が、俺としては安心する」


 まるで親が子を、兄が妹を見ているような目をしている。気がする。
 優しさに頼りすぎてはいけない、と思っているが、頼ってほしいと言われてしまう。
 甘さに溺れてしまいそうで、失礼かもしれないけど息苦しさを感じる。
 この優しさが、世界が違うからこそ得られるものだと思うと、やはり、気のせいではなく、苦しい。


「……ありがとう、ございます」


 自分なりに精一杯笑ったつもりだが、笑えただろうか。
 武器の石はこっそりポケットに入れた。

 殿下の顔は、見れなかった。