「さむっ」
―― あんの野郎……!!
吹雪が吹き荒れるどこかの山。
一人……スグサさんと二人、城から離れた雪山に飛ばされた私は、これから『討伐』という仕事をすることになった。なってしまった。
ことの経緯は、同日の数時間前に遡る。
―――――……
私がこの世界で生きていくと決めてから、もう数えきれないほどの日数が過ぎた。
夏っぽい時期から冬っぽい時期になったから、向こうで言えば半年ぐらいは過ぎたことになる。
向こうも同じだけ日数が過ぎているのか、はたまた全く時間は進んでいないのか、時間の流れが違うかもしれない。
少なくともこの世界にいるだけで一年の半分は終わっているし、この世界の一年も終わりかけている。
こちらの世界は一年は六百日。十二カ月。
ひと月は五十日で統一している。
季節は四ではなく六季ある。
年の始まりから冬、春、湿、夏、秋、乾。
向こうでは梅雨と言っていた部分がここでは湿に当たる。
まあ日数と季節の個数が違うだけでほぼほぼ一緒だ。
今、時期は冬。寒い。
すっかり厚着をするようになった。
フローレンタム国では屋根や道に雪が降り積もっている。
お城の外ではしんしんと雪が降る中、訓練に励む騎士団の人たちの声が聞こえる。
目の前の騎士は転んだわけではないが、腕を骨折をした。
掌を上へ、下へ何度か返して、腕の動きを見る。
「動かして痛みはありますか?」
「少し」
「じゃあもう少し固定しておきましょう。添え木は外しておきますね。包帯で巻いているところ以外の関節は動かしてください」
「わかりました」
雪のせいで転ぶ人が多い。
そうすると転んだ表紙に手をついたり、腰や足の付け根をぶつけて骨折する人も多い。
お城の医術室には騎士の人が怪我をして訪れるが、数はそんなに多くない。
新規で怪我をしてくる人は一日に一人いるかいないか。
クザ先生は街の医術室にも顔を出しているそうで、日に何人も訪れる人がいるそうだ。
「ありがとうございました」
「お大事にしてください」
鎧の音を立てながら退出するのを見守って、部屋には今、私一人だ。
今の騎士さんは骨折してからひと月は経っているので、もうほぼほぼ治っている。
包帯は巻かなくてもよさそうだったのだが、注意喚起というか意識付けも含めて巻くようにしている。
騎士という職業柄なのか、無理をしやすい。念のため。
「ふぅ」
人と接するのはまだ緊張する。
クザ先生は今は別件で部屋にいないので、医術室には私一人。
今の人は何度か顔を合わせているのでまだマシな方だ。
初対面の時には診察を渋っていて、実際診るときもツンケンされたことは記憶に新しい。
その時と比べると今日は今までで一番丸くなった。
ちなみに今の私の格好。
タートルネックのロングワンピースを着て、その上にローブとフードを被っている。
ローブは口元が隠れるほどに襟が大きい。
足元はもこもこのショートブーツ。
そして秘密のアイテム、『透視』の魔法が備わった眼鏡。
顔もほとんどが見えないから、最初は警戒しない人はいなかった。
けれど警戒されるたび、クザ先生も殿下も、カミルさんもアオイさんもロタエさんも説明してくれた。
今では一人でいても対応できるほどに、私のことを『怪しいが大丈夫な医術師見習い』だと広めてくれた。
時計を見ると時刻はお昼を過ぎたところ。
そろそろ私の担当分野の部屋に行かないと。
部屋を簡単に片づけて、医術室の札を『不在』『訓練場⑧』に直す。
これから向かうのはお城にある施設の一つ、訓練場⑧。
そこには過去大怪我をして退役した人たちが集まってくる。
私の担当は、後遺症を持つ人たちの支援だ。
廊下を歩いていると見覚えのある人が待ち合わせ場所にいる。
「よう」
「こんにちは。殿下」
冬休みということでお城に滞在中のお人。
暖かそうで質の良さそうな服にマントを羽織っている高貴なお人。
窓の間の壁に背を預けたままこちらに手を振るお人。
雪が降っている光景の中に映えるその姿。様になるなあ。
訓練室でやる私のやることを見学したいと以前から言われていて、今日がその日となった。
「お久しぶりです」
「久しぶり。仕事はどうだ?」
「仕事には慣れてきました。けど人はまだちょっと身構えます」
「そうか。前進はしてるんだ。焦るなよ」
殿下が学校の寮に戻ってから、不定期で会っている。
私のお城での過ごし方とか、与えられた仕事についてとか、殿下が学校で習ったこととか、そんな内容を都度話している。
私がお城で仕事を与えられたことについては研究員と大分揉めたと後々に聞いた。
研究員としては「医術師のために作ったわけじゃない」「そんな使い方をするなら調査に回してくれ」と主張していたそうだ。
それを殿下は。
「俺がしたい」
王族らしい……と言ったら語弊があるかもしれないが、有無を言わせず承諾させたらしい。
それを聞いて、王様の有無を言わせない投げやりな台詞を思い出し、何かに納得してしまった。
―― あんの野郎……!!
吹雪が吹き荒れるどこかの山。
一人……スグサさんと二人、城から離れた雪山に飛ばされた私は、これから『討伐』という仕事をすることになった。なってしまった。
ことの経緯は、同日の数時間前に遡る。
―――――……
私がこの世界で生きていくと決めてから、もう数えきれないほどの日数が過ぎた。
夏っぽい時期から冬っぽい時期になったから、向こうで言えば半年ぐらいは過ぎたことになる。
向こうも同じだけ日数が過ぎているのか、はたまた全く時間は進んでいないのか、時間の流れが違うかもしれない。
少なくともこの世界にいるだけで一年の半分は終わっているし、この世界の一年も終わりかけている。
こちらの世界は一年は六百日。十二カ月。
ひと月は五十日で統一している。
季節は四ではなく六季ある。
年の始まりから冬、春、湿、夏、秋、乾。
向こうでは梅雨と言っていた部分がここでは湿に当たる。
まあ日数と季節の個数が違うだけでほぼほぼ一緒だ。
今、時期は冬。寒い。
すっかり厚着をするようになった。
フローレンタム国では屋根や道に雪が降り積もっている。
お城の外ではしんしんと雪が降る中、訓練に励む騎士団の人たちの声が聞こえる。
目の前の騎士は転んだわけではないが、腕を骨折をした。
掌を上へ、下へ何度か返して、腕の動きを見る。
「動かして痛みはありますか?」
「少し」
「じゃあもう少し固定しておきましょう。添え木は外しておきますね。包帯で巻いているところ以外の関節は動かしてください」
「わかりました」
雪のせいで転ぶ人が多い。
そうすると転んだ表紙に手をついたり、腰や足の付け根をぶつけて骨折する人も多い。
お城の医術室には騎士の人が怪我をして訪れるが、数はそんなに多くない。
新規で怪我をしてくる人は一日に一人いるかいないか。
クザ先生は街の医術室にも顔を出しているそうで、日に何人も訪れる人がいるそうだ。
「ありがとうございました」
「お大事にしてください」
鎧の音を立てながら退出するのを見守って、部屋には今、私一人だ。
今の騎士さんは骨折してからひと月は経っているので、もうほぼほぼ治っている。
包帯は巻かなくてもよさそうだったのだが、注意喚起というか意識付けも含めて巻くようにしている。
騎士という職業柄なのか、無理をしやすい。念のため。
「ふぅ」
人と接するのはまだ緊張する。
クザ先生は今は別件で部屋にいないので、医術室には私一人。
今の人は何度か顔を合わせているのでまだマシな方だ。
初対面の時には診察を渋っていて、実際診るときもツンケンされたことは記憶に新しい。
その時と比べると今日は今までで一番丸くなった。
ちなみに今の私の格好。
タートルネックのロングワンピースを着て、その上にローブとフードを被っている。
ローブは口元が隠れるほどに襟が大きい。
足元はもこもこのショートブーツ。
そして秘密のアイテム、『透視』の魔法が備わった眼鏡。
顔もほとんどが見えないから、最初は警戒しない人はいなかった。
けれど警戒されるたび、クザ先生も殿下も、カミルさんもアオイさんもロタエさんも説明してくれた。
今では一人でいても対応できるほどに、私のことを『怪しいが大丈夫な医術師見習い』だと広めてくれた。
時計を見ると時刻はお昼を過ぎたところ。
そろそろ私の担当分野の部屋に行かないと。
部屋を簡単に片づけて、医術室の札を『不在』『訓練場⑧』に直す。
これから向かうのはお城にある施設の一つ、訓練場⑧。
そこには過去大怪我をして退役した人たちが集まってくる。
私の担当は、後遺症を持つ人たちの支援だ。
廊下を歩いていると見覚えのある人が待ち合わせ場所にいる。
「よう」
「こんにちは。殿下」
冬休みということでお城に滞在中のお人。
暖かそうで質の良さそうな服にマントを羽織っている高貴なお人。
窓の間の壁に背を預けたままこちらに手を振るお人。
雪が降っている光景の中に映えるその姿。様になるなあ。
訓練室でやる私のやることを見学したいと以前から言われていて、今日がその日となった。
「お久しぶりです」
「久しぶり。仕事はどうだ?」
「仕事には慣れてきました。けど人はまだちょっと身構えます」
「そうか。前進はしてるんだ。焦るなよ」
殿下が学校の寮に戻ってから、不定期で会っている。
私のお城での過ごし方とか、与えられた仕事についてとか、殿下が学校で習ったこととか、そんな内容を都度話している。
私がお城で仕事を与えられたことについては研究員と大分揉めたと後々に聞いた。
研究員としては「医術師のために作ったわけじゃない」「そんな使い方をするなら調査に回してくれ」と主張していたそうだ。
それを殿下は。
「俺がしたい」
王族らしい……と言ったら語弊があるかもしれないが、有無を言わせず承諾させたらしい。
それを聞いて、王様の有無を言わせない投げやりな台詞を思い出し、何かに納得してしまった。



