魔術師は死んでいた。  【コミカライズ12/26から】

 電話をしながらメモを取るように。
 鍋を混ぜながらテレビを見ているように。
 歩きながらスマホをいじるように。
 マルチタスクをやっている時なんて、実は結構な頻度であった。
 それと同じ。
 同じ。
 おなじ。
 同時に何かを行う、って言うのは体の反応としても、あった。
 例えば細かい作業をしている時。
 指先の動きを行っているはずなのに、肩に力が入ったり、歯を食いしばってしまったり。
 そういうのは『連合反応』という体の反応。
 大まかに言ってしまえばそれらと同じだ。
 風の魔法で髪がはためく。火の魔法で汗がにじむ。


「うわっ」

 ―― 風強すぎ。弱めて。

「はい……っ」

 ―― 火も弱くしちゃ意味ねーだろ。


 そんなこと言われても難しいんですよ。
 天才的な指導者はたまに煽っているように言ってくる。
 本人はもちろんそのつもりはないのだろうなあ。
 練習自体は何度もやっているし、失敗も成功もやっているけれど。
 頭ではわかっていても実際にやってみると難しくて。
 目の前にいるヤビクニが、待ちかねている様にグネグネと体を捻る。
 その奥の二人は、いつでも助けてくれるかのようにこちらを見張っている。

 じんわり。

 じんわり。

 風が収束する。
 熱が(こも)る。光が走る。


 ―― ……小さいが、まあいいんじゃないか? じゃあ、それを投げろ。


 鬼教官から許可が出た。
 右手の風属性をそのままに、左手の火属性をなくす。
 風で包まれているのは、熱せられた空気と、光。
 片手サイズの球状のそれを右手で持ちながら、下段のヤビクニの前に立つ。


「……ごめんね」


 言って。
 放った。

 念のため、高めに上げて、落ちるまでの時間を稼ぐ。
 宙を漂っている間に、私自身、船から足を離して浮く。
 動かず、泣き声をあげず。
 ただただ球が落ちるのを見つめている様に見えるヤビクニは、落ちてきたそれを体で受け止め、音もなく、一際大きく体を震わせた。
 そしてそのまま、二度と動かなかった。

 放った魔法は、オリジナル合成魔法≪伝雷≫。
 スグサさんが作った、複数の属性を同時に使った、不可能と思われていた魔法。
 やってみろと提案されたときは気は進まなかったけど、電撃は一瞬で意識を奪えるので、討伐するときとかは苦しませることが少ない。
 そう考えると、習得したくなった。
 それと、私がどこまでできるのかも知りたくなった。
 スグサさんの身体とは言え、人格は別。
 本人が指導してくれているとはいえ、私は魔法については初心者。
 まさか、できるとは。


「……ごめん」


 もう一度謝る。
 黒く、まだ生きていそうな目。
 動きはしないけど、もしかしたら死んではいないかもしれない。
 地に足を付けた私は二連のネックレスの片方を持ち、銀色の石が形を変える。
 針となったそれを、ヤビクニの首に一回刺す。
 長いようで短い、短いようで長い数秒を、祈るようにそのまま過ごした。


「お疲れ」
「お疲れ様です」


 ふわりと降りてきたカエ様とロタエさんの声に、夢の中から覚めたような感覚を覚える。
 針を抜いて、一振り。
 今回針で吸い取ったのは、血。
 鮮度を保つためと、動きを鈍らせるため。
 吸った血がどこに行ったのかはわからないけど、針はそのまま石へと戻す。


「お怪我はないですか?」
「俺たちは大丈夫だ。むしろヒスイが言われるべき言葉だろう、それは」
「そう、ですね」


 後始末は二人が買って出てくれたので、私は船室で休むこととした。
 船特有の香りがして、若干の気持ち悪さを感じる。
 窓を開けて喚起して、潮風を通す。
 天気は暗い。雨が今にも降りそうだ。
 蒸し暑い。湿気が強い。
 うずくまると余計に気持ちが悪かったので、ベンチ上の椅子に横たわって、目を閉じた。





 ―――――……





「いヤー! こンな立派なヤビクニ! 素晴らしいでス!」


 目を開けたら陸地についていた。
 転移か操縦したのかわからないけど、船着き場についてから声をかけられ、今はマルス邸。
 焦げない程度の弱い電気ショックのようなもので一撃。
 暴れたりもなかったので、提示したヤビクニに目立った傷はなく、満足いただけたようだ。


「報酬分はギルドからオ受け取りくダさい! さラに是非この後、宴を開クのでご同席いただけマせんか!」
「いや、今回は遠慮させてもらう。慣れない場所だったので、思ったよりも疲労が溜まってしまって。それにこの後も別の場所に移動しなければならないんだ」


 諸手を挙げて喜んでくれて嬉しいことは嬉しい。
 が、船に酔ったのか疲れからか、マルス様のテンションは見ているだけで辛いものがある。
 気になる話し方も、聞いているだけなのに疲れを感じる。
 正直言えば、すぐにここから離れたい。


「そうですカ……残念です。デはまたの機会に。こチらにお寄りスることがありましタらお声掛けくださイ。全力でお力にナりましょう!」
「よろしく頼む」


 疲れた体を無理やり動かして、振り返ることなくマルス邸を出た。
 後ろからは歓喜の声がしばらく聞こえていた。


「アの方ニ報告しなくテは!」