電話をしながらメモを取るように。
鍋を混ぜながらテレビを見ているように。
歩きながらスマホをいじるように。
マルチタスクをやっている時なんて、実は結構な頻度であった。
それと同じ。
同じ。
おなじ。
同時に何かを行う、って言うのは体の反応としても、あった。
例えば細かい作業をしている時。
指先の動きを行っているはずなのに、肩に力が入ったり、歯を食いしばってしまったり。
そういうのは『連合反応』という体の反応。
大まかに言ってしまえばそれらと同じだ。
風の魔法で髪がはためく。火の魔法で汗がにじむ。
「うわっ」
―― 風強すぎ。弱めて。
「はい……っ」
―― 火も弱くしちゃ意味ねーだろ。
そんなこと言われても難しいんですよ。
天才的な指導者はたまに煽っているように言ってくる。
本人はもちろんそのつもりはないのだろうなあ。
練習自体は何度もやっているし、失敗も成功もやっているけれど。
頭ではわかっていても実際にやってみると難しくて。
目の前にいるヤビクニが、待ちかねている様にグネグネと体を捻る。
その奥の二人は、いつでも助けてくれるかのようにこちらを見張っている。
じんわり。
じんわり。
風が収束する。
熱が籠る。光が走る。
―― ……小さいが、まあいいんじゃないか? じゃあ、それを投げろ。
鬼教官から許可が出た。
右手の風属性をそのままに、左手の火属性をなくす。
風で包まれているのは、熱せられた空気と、光。
片手サイズの球状のそれを右手で持ちながら、下段のヤビクニの前に立つ。
「……ごめんね」
言って。
放った。
念のため、高めに上げて、落ちるまでの時間を稼ぐ。
宙を漂っている間に、私自身、船から足を離して浮く。
動かず、泣き声をあげず。
ただただ球が落ちるのを見つめている様に見えるヤビクニは、落ちてきたそれを体で受け止め、音もなく、一際大きく体を震わせた。
そしてそのまま、二度と動かなかった。
放った魔法は、オリジナル合成魔法≪伝雷≫。
スグサさんが作った、複数の属性を同時に使った、不可能と思われていた魔法。
やってみろと提案されたときは気は進まなかったけど、電撃は一瞬で意識を奪えるので、討伐するときとかは苦しませることが少ない。
そう考えると、習得したくなった。
それと、私がどこまでできるのかも知りたくなった。
スグサさんの身体とは言え、人格は別。
本人が指導してくれているとはいえ、私は魔法については初心者。
まさか、できるとは。
「……ごめん」
もう一度謝る。
黒く、まだ生きていそうな目。
動きはしないけど、もしかしたら死んではいないかもしれない。
地に足を付けた私は二連のネックレスの片方を持ち、銀色の石が形を変える。
針となったそれを、ヤビクニの首に一回刺す。
長いようで短い、短いようで長い数秒を、祈るようにそのまま過ごした。
「お疲れ」
「お疲れ様です」
ふわりと降りてきたカエ様とロタエさんの声に、夢の中から覚めたような感覚を覚える。
針を抜いて、一振り。
今回針で吸い取ったのは、血。
鮮度を保つためと、動きを鈍らせるため。
吸った血がどこに行ったのかはわからないけど、針はそのまま石へと戻す。
「お怪我はないですか?」
「俺たちは大丈夫だ。むしろヒスイが言われるべき言葉だろう、それは」
「そう、ですね」
後始末は二人が買って出てくれたので、私は船室で休むこととした。
船特有の香りがして、若干の気持ち悪さを感じる。
窓を開けて喚起して、潮風を通す。
天気は暗い。雨が今にも降りそうだ。
蒸し暑い。湿気が強い。
うずくまると余計に気持ちが悪かったので、ベンチ上の椅子に横たわって、目を閉じた。
―――――……
「いヤー! こンな立派なヤビクニ! 素晴らしいでス!」
目を開けたら陸地についていた。
転移か操縦したのかわからないけど、船着き場についてから声をかけられ、今はマルス邸。
焦げない程度の弱い電気ショックのようなもので一撃。
暴れたりもなかったので、提示したヤビクニに目立った傷はなく、満足いただけたようだ。
「報酬分はギルドからオ受け取りくダさい! さラに是非この後、宴を開クのでご同席いただけマせんか!」
「いや、今回は遠慮させてもらう。慣れない場所だったので、思ったよりも疲労が溜まってしまって。それにこの後も別の場所に移動しなければならないんだ」
諸手を挙げて喜んでくれて嬉しいことは嬉しい。
が、船に酔ったのか疲れからか、マルス様のテンションは見ているだけで辛いものがある。
気になる話し方も、聞いているだけなのに疲れを感じる。
正直言えば、すぐにここから離れたい。
「そうですカ……残念です。デはまたの機会に。こチらにお寄りスることがありましタらお声掛けくださイ。全力でお力にナりましょう!」
「よろしく頼む」
疲れた体を無理やり動かして、振り返ることなくマルス邸を出た。
後ろからは歓喜の声がしばらく聞こえていた。
「アの方ニ報告しなくテは!」
鍋を混ぜながらテレビを見ているように。
歩きながらスマホをいじるように。
マルチタスクをやっている時なんて、実は結構な頻度であった。
それと同じ。
同じ。
おなじ。
同時に何かを行う、って言うのは体の反応としても、あった。
例えば細かい作業をしている時。
指先の動きを行っているはずなのに、肩に力が入ったり、歯を食いしばってしまったり。
そういうのは『連合反応』という体の反応。
大まかに言ってしまえばそれらと同じだ。
風の魔法で髪がはためく。火の魔法で汗がにじむ。
「うわっ」
―― 風強すぎ。弱めて。
「はい……っ」
―― 火も弱くしちゃ意味ねーだろ。
そんなこと言われても難しいんですよ。
天才的な指導者はたまに煽っているように言ってくる。
本人はもちろんそのつもりはないのだろうなあ。
練習自体は何度もやっているし、失敗も成功もやっているけれど。
頭ではわかっていても実際にやってみると難しくて。
目の前にいるヤビクニが、待ちかねている様にグネグネと体を捻る。
その奥の二人は、いつでも助けてくれるかのようにこちらを見張っている。
じんわり。
じんわり。
風が収束する。
熱が籠る。光が走る。
―― ……小さいが、まあいいんじゃないか? じゃあ、それを投げろ。
鬼教官から許可が出た。
右手の風属性をそのままに、左手の火属性をなくす。
風で包まれているのは、熱せられた空気と、光。
片手サイズの球状のそれを右手で持ちながら、下段のヤビクニの前に立つ。
「……ごめんね」
言って。
放った。
念のため、高めに上げて、落ちるまでの時間を稼ぐ。
宙を漂っている間に、私自身、船から足を離して浮く。
動かず、泣き声をあげず。
ただただ球が落ちるのを見つめている様に見えるヤビクニは、落ちてきたそれを体で受け止め、音もなく、一際大きく体を震わせた。
そしてそのまま、二度と動かなかった。
放った魔法は、オリジナル合成魔法≪伝雷≫。
スグサさんが作った、複数の属性を同時に使った、不可能と思われていた魔法。
やってみろと提案されたときは気は進まなかったけど、電撃は一瞬で意識を奪えるので、討伐するときとかは苦しませることが少ない。
そう考えると、習得したくなった。
それと、私がどこまでできるのかも知りたくなった。
スグサさんの身体とは言え、人格は別。
本人が指導してくれているとはいえ、私は魔法については初心者。
まさか、できるとは。
「……ごめん」
もう一度謝る。
黒く、まだ生きていそうな目。
動きはしないけど、もしかしたら死んではいないかもしれない。
地に足を付けた私は二連のネックレスの片方を持ち、銀色の石が形を変える。
針となったそれを、ヤビクニの首に一回刺す。
長いようで短い、短いようで長い数秒を、祈るようにそのまま過ごした。
「お疲れ」
「お疲れ様です」
ふわりと降りてきたカエ様とロタエさんの声に、夢の中から覚めたような感覚を覚える。
針を抜いて、一振り。
今回針で吸い取ったのは、血。
鮮度を保つためと、動きを鈍らせるため。
吸った血がどこに行ったのかはわからないけど、針はそのまま石へと戻す。
「お怪我はないですか?」
「俺たちは大丈夫だ。むしろヒスイが言われるべき言葉だろう、それは」
「そう、ですね」
後始末は二人が買って出てくれたので、私は船室で休むこととした。
船特有の香りがして、若干の気持ち悪さを感じる。
窓を開けて喚起して、潮風を通す。
天気は暗い。雨が今にも降りそうだ。
蒸し暑い。湿気が強い。
うずくまると余計に気持ちが悪かったので、ベンチ上の椅子に横たわって、目を閉じた。
―――――……
「いヤー! こンな立派なヤビクニ! 素晴らしいでス!」
目を開けたら陸地についていた。
転移か操縦したのかわからないけど、船着き場についてから声をかけられ、今はマルス邸。
焦げない程度の弱い電気ショックのようなもので一撃。
暴れたりもなかったので、提示したヤビクニに目立った傷はなく、満足いただけたようだ。
「報酬分はギルドからオ受け取りくダさい! さラに是非この後、宴を開クのでご同席いただけマせんか!」
「いや、今回は遠慮させてもらう。慣れない場所だったので、思ったよりも疲労が溜まってしまって。それにこの後も別の場所に移動しなければならないんだ」
諸手を挙げて喜んでくれて嬉しいことは嬉しい。
が、船に酔ったのか疲れからか、マルス様のテンションは見ているだけで辛いものがある。
気になる話し方も、聞いているだけなのに疲れを感じる。
正直言えば、すぐにここから離れたい。
「そうですカ……残念です。デはまたの機会に。こチらにお寄りスることがありましタらお声掛けくださイ。全力でお力にナりましょう!」
「よろしく頼む」
疲れた体を無理やり動かして、振り返ることなくマルス邸を出た。
後ろからは歓喜の声がしばらく聞こえていた。
「アの方ニ報告しなくテは!」



