魔術師は死んでいた。  【コミカライズ12/26から】

 ―――――……





 前日。
 氷を河川敷に転送して、氷を溶かしながら焼却処理をしていた時。


「これが最後の一つですね」
「ようやくか」


 思わず息を吐き出してしまうほど量が多かった。
 見上げるほどに大きい氷から、ラースを一体ずつ小分けにし、火にくべるという作業を繰り返した。
 氷の大きさに対し拳大のラースというのは対比が大きく、風の魔法で削っていく作業が思ったよりも大変だった。
 個体としては千匹はいたかもしれない。
 途中から数えるのをやめたから具体的な数字はわからないけど。
 それもこの氷で最後となり、終わりが見えて安心する。
 最後ともなればやる気は作業開始の時のように活気を取り戻し、さっさとやり遂げてしまおうと腕まくりをする。


「殿下」
「お、おかえり」


 廃村の調査のために焼却処理からは離脱していたロタエさんが、転移魔法で帰ってきた。
 袖をまくった腕のやり場に一瞬迷ったが、二人は二人の仕事もあるし、私は作業をしていよう。


「どうだった?」
「村はヒスイさんのおかげでほぼ更地になり、開拓はしやすそうです。ただ周辺の森に問題が」
「何かあったのか?」
「ラースがまだいるようです」
「え」


 聞き耳立ててましたすみません。
 ロタエさんの話によると、廃村のあった場所は凸凹しているものの問題はなし、村の周辺も見て回った際、ラースの糞や錆などの痕跡があったという。
 軽く森の中に入ってみれば、木の根元にいたり、登っていたりと自由に過ごしていたらしい。


「じゃあ明日は森を見回るか」
「それがよろしいかと」





 ―――――……





 ということで、今は残党狩りをしている。
 焼却処理をしなかった一体と、焼却処理をしたラースの骨を使用し、魔法で残りの探している。
 探す役はロタエさん。
 指示を貰ってラースの居場所を見つけ、氷漬けにするのがカエ様と私。
 どうしても動きたいと言う水属性を持っていない殿下のため、≪水面(みなも)の華は末枯(うらが)れず≫を入れた魔石を渡している。
 かつ風属性で機動力を上げ、木を渡って移動している。


「殿下、二時の方向、集団がいます」
「よし、まとめてやってくる」
「私も行きますか?」
「ヒスイさんは正面に進んだところに別の巣があるようです」
「わかりました」


 森の中では比較的群れが小分けになっている。
 しかし固まっているため、まとめて氷漬けにしやすい。
 丸めた紙の上を歩く練習が活きたのか、移動はスムーズに行ける。
 枝から枝へ渡り、見つけては氷漬けにして、を繰り返す。
 そんな作業を廃村周り五時間。
 念のため広範囲で探索し、三周したぐらい。
 朝一から始めたのに昼を過ぎてしまった。


「お疲れ様でした」
「さすがに、疲れたな」
「そうですね……」


 魔力としてはそこまででもないというのは言わないでおこう。
 今更かもしれないが。
 ただ、枝から枝へ飛び越えながら、草木に潜む小さい生き物を探すのは身体的に疲れた。
 体力面が問題かなあ。
 スグサさんもカミルさんとやってたときに息切れしてたし、体力はもともと少ないほうなのかも。
 私が仕留めたのは三百程。
 殿下も同数程らしい。


「やはり多いですね」
「そうだな。繁殖力はそれなりにある方だとしても、異常繁殖に値するだろう」


 表情は深刻だ。
 二人が今から話そうとしていることは私は詳しくは知らないが、私が目の前にいるのに話し出すということは、私にも関係があるのかな。


「ヒスイたちが学外で任務をこなした時があっただろ」
「遠足の時のですか?」
「そうだ。あの時の薬草採取も、ピーチも、イレギュラーだったスパデューダも、国中で異常繁殖と過成長に関係している」


 カエ様が言うには、ピーチの討伐は普段はあまり挙げられないらしい。
 異常繁殖。確かに危険な魔物ではあるが、人間を襲うことはほぼないとのこと。
 しかし今回は寮が多く、目撃情報が多かったため、間引きという意味合いで行われたのだという。

 スパデューダは過成長。
 巣があったことは想定していなかったが、大きすぎる個体は周辺生物のバランスを崩す。
 過剰繁殖にもつながる可能性があるということで、討伐が行われた。
 スパデューダに関しては人的被害も出ていたようだ。


「この情報、私に言っちゃってよかったんですか?」
「信用している、というのと、おそらくだが最後に行う予定の最上級-の任務、これも過剰繁殖によるものの可能性があるからな。注意が必要だ」
「……そうなんですね」


 信じていないわけではない。
 それは私も同じこと。
 カエ様……殿下の言葉も人柄も信用している方だ。
 だから、今言った言葉に偽りはないと思う。
 偽り(・・)は。
 じっ、と、殿下の表情を窺う。
 疑っているのではない。
 時として、目は口程に物を言う。
 伝わってほしいんだ。


「……殿下」
「……今は「殿下」じゃなくカエなんだが?」
「聞いているのは殿下です」


 じっ、と、見つめる。
 見つめ返してくるので、さらに見つめ返す。
 睨み合いとも取れそうな状況だが、私は引く気はありませんという意味合いも込めて、ブレずに見つめ続ける。
 次第に殿下に眉間の皺が出来始め、口が曲がっていく。
 ふいっと顔を逸らし、ため込んでいたような息を吐き出した。


「はあぁぁ……。わかった。降参だ」
「だから言ったじゃないですか」
「うるさいぞ」


 ロタエさんは話すべきと考えてくれていたよう。
 殿下の重い口が開く。


「……今回の二つの任務。依頼主は市民やギルドからではなく、城からだ」