魔術師は死んでいた。  【コミカライズ12/26から】

 ―― なかなか……遠目から見れば小景だな。


 魔法を使いながら進み続け、おそらくは村の端まで来たところ。
 振り向いて状況を確認すれば、荒寥(こうりょう)としていた廃村の風景とは一風変わっていた。
 ≪隔絶された水槽≫本来空気を含まない。
 一定の範囲に水が詰まっているだけの状態になる。
 ラースは呼吸をする生き物。
 苦しみながら吐き出された空気ではあるが、≪水槽≫の中身にそれらが漂い、昼間の太陽がそれらを照らす。
 その≪水槽≫が村全域、スグサさんの無茶ぶりにより平面だけではなく、宙に浮いた状態としても存在している。
 遠目に……大きくても掌程のラースを認識しなければ、まるでここは屋外のアクアリウム。
 生き物の命を奪ったことに変わりはない。
 奪ったうえで美しさを感じるのは信条としてはよろしくないのかもしれない。
 それでも、その感想を抱かずにはいられなかった。


「……随分なことをしたなあ」


 後をゆっくり追っていたカエ様とロタエさんが、周囲を見回しながら歩み寄る。
 随分なことを、というのは、≪水槽≫の量か、水責めのことか。


「辛くはないのですか?」
「大丈夫です」


 その問いかけの意味は分かっている。
 「二百もの魔法を同時発動したままで大丈夫なのか」という、師匠がスグサさんでは気にかけてくれない内容だ。
 普通の人……学生や魔術師団、ギルドの人なら十個できるかできないかぐらいだろう。
 同じ魔法を複数個作る分には、他属性魔法の同時発動よりも非常識ではない。
 だけれど難しいことには変わりなく、コントロールや魔力量は相当に必要だ。
 そもそも水槽の大きさは人一人分以下が基準とされている。
 二百個連続かつ同時発動、規格外の大きさ、余裕あり。
 さすがにこれを普通だとは到底思えない。


「この後はどうするんだ?」


 スグサさんと接することもある二人は慣れてきているのか、淡々とことを進める。


「仕上げをします。ラースは結局は焼却処分が望ましいとのことでしたので、償却できる場所まで移動できるように」
「ほう」


 水槽ごと持っていくことはさすがにしたくない。
 魔力を着れば水は流れ、中のラースを拾わなければならなくなる。
 水ではないもので、改めて捕獲してから移動することを考えている。
 作業時間は一時間ほど経過。
 一番最後に作った≪水槽≫も、作ってから十分は経過しただろうか。
 おおよそラースの呼吸は止まったものとして、次の工程に移る。
 魔力を込め、二百の≪水槽≫に同時に魔法を発動する。
 対象となる≪水槽≫は距離があっても光を発し、廃村全体が明るく照らされる。


 ―― 今回は詠唱なしでやってみろ。十分な量の魔力を込めろよ。


 この量だ。
 中途半端な魔力では完全に発動しきれないかもしれない。
 対象が個々になっている分、過剰に魔力を流した方が全て固まってくれそう。
 これを発動した時を思い出しながら、頭の中でイメージを鮮明に作り、唱える。


「≪水面(みなも)の華は末枯(うらが)れず≫」


 ラースを含んでいた≪水槽≫は、瞬間的に氷の華を咲かせた。
 造形美を持ったその箱は、水の反射とはまた違った光を宿し、透き通る華に輝きを持たせる。
 氷の造形が中身を隠し、ラースを含んでいるということは忘れてしまいそうになる。


「これは……」
「圧巻、ですね」


 自然の中に氷の塊が大量に並び、これはこれで展示会にでもなりそうだと制作者は語る。
 これが夕日だったり、夜だったらまた違ったのだろうなと思うと少し残念ではある。
 そんな余裕ができたのだな、とも思う。


「これで私の計画は終わりです」
「お疲れさん」


 私が練っていた作戦はここまでで、この氷を焼却できるところまで転送できればと考えている。
 転送についてはスグサさんが可能だと言うのでこの作戦を思いついたのだが……スグサさんだからなあ……。


「この氷、河辺や火属性魔法が使えるところに転送できますか?」
「一気には難しいができるぞ。な、ロタエ」
「はい。持ってきています」


 あ、よかった。本当だった。
 ロタエさんの荷物の中から二つの魔石が取り出さた。
 氷一つ一つを触りながら石に魔力を流せば、もう一つの魔石があるところに運ばれるのだそう。
 メールみたい。


「じゃあ、ロタエは焼却できそうなところに移動してくれ。俺とヒスイで転送する」
「承知しました」


 この数と大きさの氷を送るのにどれくらいの魔力を使うのだろう。
 転送魔法は使ったことがないからわからないな。





 ―――――……





「殿下、右側に見える洞窟の中に数匹います」
「了解!」
「ヒスイさんは一つ後ろの木の上に。洞の中に潜んでいます」
「後ろ……行きます」


 念話での、ロタエさんからの指示により、私とカエ様は二手に分かれて廃村周りの森を駆け巡っていた。
 さながらサバイバルゲームのような。
 鬼ごっこのような。