季節は湿となり、雨が降っていることが多い時期となった。来月は一月丸まるお休みとなるので、先週一週間を使って期末試験が行われた。
筆記と実技の試験を行い、今は結果を記した一枚の紙切れを順番に配られている。この学校では総合順位トップテンまでは張り出すらしい。名前は出てほしくないかつ乗らない予定の私的には嬉しい。
続々と名前を呼ばれ、紙を受け取った生徒は一喜していたり一憂していたり。室内では二極化している。
そんな中、私は一人、私しか考えていないだろうことが頭の中を占めている。
実は、私がこの世界で意識を取り戻して、もうすぐ一年が経とうとしていた。
この世界で言えば一年は六百日。もうそんなに経ったのか、というのがまず最初の感想。次の感想は、前の世界ではどうなったのだろうか、ということ。
前にスグサさんに「戻る気はない」と言ったことは、今でも変わっていない。それでも、親や友人がどうしているか、どういう気持ちでいるのか、気になってしまう。
思い出さないようにしていた時期もあったが、最近はそんな気もなく考えていなかった。学校に通うようになってから、そちらに気を取られていたというのが大きい。
それでも、こういう節目だと気付いてしまうと、考えてしまうことは避けられない。天気が雨というのも、以前住んでいた地域についてノスタルジーを感じてしまう。
「次。ヒスイ」
ヒイラギ先生が名を呼ぶ。
返事をして立ち上がって、教壇に向かって紙を受け取る。
「手ぇ抜かなかったか?」
「全力です」
「へえ」
怪しまれているような気がするが、素知らぬ顔で席に戻る。先生の目は見ないように。
皆と同じぐらの魔法にするために『全力』を使ったことには変わりない。
スグサさんと練習していると、授業で見ている魔法のレベルと全然違うんだよね……。色んな魔法が使えたり、威力も強いものが使えたりするのは楽しいのだけど、外見や立場上、あまり目立ちたくはない。
ベローズさんに報告されたりしたくないし……。
スグサさんも学校には通っていなかったそうだから、学生のレベルというのを知らないのだとか。
だからってスグサさんのレベルで習ってしまってはそりゃあ学生レベルではないのだけど。なんたって最高位魔術師らしいし。
「ヒスイ、どうだったー?」
「まあまあです」
「良さそうな感じだね! 私はダメだー! あは!」
「ライラ……母上に怒られちゃうよ……」
「はっ」
ライラさんとナオさんのお母さんは厳しいのだろうか。笑い飛ばしていたライラさんがぴたりと動きを止め、冷や汗だけが静かに滴った。
「あらあら」
「マリっちはどうだったー?」
「聞くまでもないだろ。トップだったじゃないか」
「いやいや、学年トップへの勝利インタビューだよー」
「うふふ。頑張りました」
「屈託のない笑顔ありがとーございまーす」
マリーさんはトップテンの一番上に名前を掲げ、先生が誇らしげにしていた。編入する時点で平均より上の学力が必要ではあったが、トップは純粋にすごい。テストの点も貴族であるということも笠に着ないので、クラス全体から祝福されていた。
休み期間中、マリーさんが先生となって勉強会も開くらしく、私も参加しようかと考えている。時間があえばだが。
「みんなはお休み中は何するのー?」
センさんが机に突っ伏し、貰った紙で風船を作りながら問う。いいのかな、紙。
「私は両親とレルギオに行きます」
「お、教祖様に報告?」
「ええ。ご挨拶に」
ユーカントリリー教の布教でこの国に来たと言ってたが、マリーさんは寮に入っているので活動はご両親が行っていたのだろう。定期的に国へ戻って、状況を伝えるのだそうだ。
「俺は一度城に戻るが、すぐ戻ってくるぞ」
「ほんと? じゃあ俺と遊んでー」
「気が乗ったらな」
「ひどっ」
シオンはあまり城にいたがらない。去年は私が人目を避けていたのもあるが、私がいたことも、殿下から教えられるまで知らなかったみたい。
センさんは勘当されたものなので、帰るつもりもなければ帰る家もないのだと。一月を寮で過ごすようなので、仲間が欲しくて仕方がないのだろう。
「あたしとナオは家のお手伝いに行ってくるよー!」
「手伝い? って何やんのー?」
「えと、事業の、手伝い……」
「……ってどんなこと?」
「んっとねー……聞いてないや!」
「聞いてないかー」
二人も貴族だが、あまり裕福ではないのだと以前行っていた。長期休みとなると人手として駆り出されるのだそう。
「ヒスイっちは?」
「私も寮を空けます。見習いの方で活動しないとなので」
「あーじゃあクザせんせーと一緒かー」
「そうですね。外出もあるようなので」
クザ先生と訪問診療に行ったり、言わないが殿下とギルドの依頼を受けに行く。その間に寮に戻ってくることもあるだろうが、正直わからない。任務次第では泊まる可能性もあるようなので、いないことにしておいた方が後々楽だろう。
ああ、そういえば、殿下にギルドのことがどうなったか、そろそろ聞きに行く頃合いだ。
筆記と実技の試験を行い、今は結果を記した一枚の紙切れを順番に配られている。この学校では総合順位トップテンまでは張り出すらしい。名前は出てほしくないかつ乗らない予定の私的には嬉しい。
続々と名前を呼ばれ、紙を受け取った生徒は一喜していたり一憂していたり。室内では二極化している。
そんな中、私は一人、私しか考えていないだろうことが頭の中を占めている。
実は、私がこの世界で意識を取り戻して、もうすぐ一年が経とうとしていた。
この世界で言えば一年は六百日。もうそんなに経ったのか、というのがまず最初の感想。次の感想は、前の世界ではどうなったのだろうか、ということ。
前にスグサさんに「戻る気はない」と言ったことは、今でも変わっていない。それでも、親や友人がどうしているか、どういう気持ちでいるのか、気になってしまう。
思い出さないようにしていた時期もあったが、最近はそんな気もなく考えていなかった。学校に通うようになってから、そちらに気を取られていたというのが大きい。
それでも、こういう節目だと気付いてしまうと、考えてしまうことは避けられない。天気が雨というのも、以前住んでいた地域についてノスタルジーを感じてしまう。
「次。ヒスイ」
ヒイラギ先生が名を呼ぶ。
返事をして立ち上がって、教壇に向かって紙を受け取る。
「手ぇ抜かなかったか?」
「全力です」
「へえ」
怪しまれているような気がするが、素知らぬ顔で席に戻る。先生の目は見ないように。
皆と同じぐらの魔法にするために『全力』を使ったことには変わりない。
スグサさんと練習していると、授業で見ている魔法のレベルと全然違うんだよね……。色んな魔法が使えたり、威力も強いものが使えたりするのは楽しいのだけど、外見や立場上、あまり目立ちたくはない。
ベローズさんに報告されたりしたくないし……。
スグサさんも学校には通っていなかったそうだから、学生のレベルというのを知らないのだとか。
だからってスグサさんのレベルで習ってしまってはそりゃあ学生レベルではないのだけど。なんたって最高位魔術師らしいし。
「ヒスイ、どうだったー?」
「まあまあです」
「良さそうな感じだね! 私はダメだー! あは!」
「ライラ……母上に怒られちゃうよ……」
「はっ」
ライラさんとナオさんのお母さんは厳しいのだろうか。笑い飛ばしていたライラさんがぴたりと動きを止め、冷や汗だけが静かに滴った。
「あらあら」
「マリっちはどうだったー?」
「聞くまでもないだろ。トップだったじゃないか」
「いやいや、学年トップへの勝利インタビューだよー」
「うふふ。頑張りました」
「屈託のない笑顔ありがとーございまーす」
マリーさんはトップテンの一番上に名前を掲げ、先生が誇らしげにしていた。編入する時点で平均より上の学力が必要ではあったが、トップは純粋にすごい。テストの点も貴族であるということも笠に着ないので、クラス全体から祝福されていた。
休み期間中、マリーさんが先生となって勉強会も開くらしく、私も参加しようかと考えている。時間があえばだが。
「みんなはお休み中は何するのー?」
センさんが机に突っ伏し、貰った紙で風船を作りながら問う。いいのかな、紙。
「私は両親とレルギオに行きます」
「お、教祖様に報告?」
「ええ。ご挨拶に」
ユーカントリリー教の布教でこの国に来たと言ってたが、マリーさんは寮に入っているので活動はご両親が行っていたのだろう。定期的に国へ戻って、状況を伝えるのだそうだ。
「俺は一度城に戻るが、すぐ戻ってくるぞ」
「ほんと? じゃあ俺と遊んでー」
「気が乗ったらな」
「ひどっ」
シオンはあまり城にいたがらない。去年は私が人目を避けていたのもあるが、私がいたことも、殿下から教えられるまで知らなかったみたい。
センさんは勘当されたものなので、帰るつもりもなければ帰る家もないのだと。一月を寮で過ごすようなので、仲間が欲しくて仕方がないのだろう。
「あたしとナオは家のお手伝いに行ってくるよー!」
「手伝い? って何やんのー?」
「えと、事業の、手伝い……」
「……ってどんなこと?」
「んっとねー……聞いてないや!」
「聞いてないかー」
二人も貴族だが、あまり裕福ではないのだと以前行っていた。長期休みとなると人手として駆り出されるのだそう。
「ヒスイっちは?」
「私も寮を空けます。見習いの方で活動しないとなので」
「あーじゃあクザせんせーと一緒かー」
「そうですね。外出もあるようなので」
クザ先生と訪問診療に行ったり、言わないが殿下とギルドの依頼を受けに行く。その間に寮に戻ってくることもあるだろうが、正直わからない。任務次第では泊まる可能性もあるようなので、いないことにしておいた方が後々楽だろう。
ああ、そういえば、殿下にギルドのことがどうなったか、そろそろ聞きに行く頃合いだ。



