[08] 映画を撮る理由
「……疲れた」
アトラクションを何個か回った後、2人は観覧車に乗ることにした。
小さなゴンドラに2人きり。
静かな空間で、少し気まずくなるかと思ったが、意外とそうでもなかった。
「楽しかったな」
「……まあね」
「こういうのも悪くないだろ」
奈穂は窓の外を見ながら、ふと口を開いた。
「ねえ、良樹はどうして映画監督を目指してるの?」
「……なんでそんなこと聞くんだ」
「だって、ずっと気になってたし」
良樹は少し考えてから、静かに話し始めた。
「……子供の頃、映画に救われたことがあるんだ」
「救われた?」
「俺の両親、離婚しててさ。親父と一緒に住んでるんだけど、昔は家がすごく暗かった。会話も少なかったし、なんとなく息苦しかった」
「……」
「そんな時、テレビで映画を観たんだ。家族がバラバラになりながらも、最後にはまた一つになる話だった。すごく綺麗で、あたたかくて……俺も、こんな風に何かを作りたいって思った」
奈穂はじっと良樹を見つめる。
「だから、映画を撮るの?」
「……ああ」
「そっか」
しんみりした空気が流れる。
「じゃあ、私も話そうかな」
「お前の夢のこと?」
「うん」
奈穂は少し照れくさそうに笑う。
「私、小さい頃から歌うのが好きだったの。ステージに立つのも好き。でもね、全然上手くなれなくて。感情を込めるのが苦手って、ずっと言われ続けてきた」
「……」
「でも、諦めたくないって思ったの。だから、良樹とこの“約束”をしたんだ」
「……なるほど」
「私、絶対に主演を勝ち取るよ」
奈穂は決意を込めて言った。
良樹は、それを聞いて静かに微笑む。
「なら、俺も負けない。お前が主演を取るなら、俺は映画を成功させる」
「ふふ、いいね」
観覧車は、ゆっくりと頂上へと登っていく。
この1年間が終わる時、私たちはどうなっているんだろう。
そんなことを考えながら、奈穂は夜景を見つめた。