[07] 遊園地デート
六月初旬、梅雨の晴れ間。
映画の撮影が本格化する前に、奈穂と良樹は“恋人らしく振る舞う練習”として遊園地に来ていた。
「うわっ、めっちゃ人多いじゃん…」
入り口で立ち止まる奈穂。人混みが苦手な彼女は、少し眉をひそめた。
「そうか? まあ、デートスポットだからな」
「っていうか、本当にここで練習するの?」
「当たり前だろ。恋人らしい自然な表情を撮るためには、まず実際にそういう状況にならないと」
「……はあ」
渋々ながらも、奈穂は観念する。
(これも演技のため……)
そう思いながらも、手を繋ぐとき、心臓が少しだけ速くなった。
「じゃあ、まずはアトラクションに乗るか」
「え、絶叫系はなしで!」
「駄目だ、恋人ならそういうのも一緒に乗るものだ」
「は!? なんでそんなルールがあるのよ!」
「俺が決めた」
「勝手に決めないでよ!!」
文句を言いながらも、結局ジェットコースターに乗ることになった。
「うぅ……やっぱ無理かも」
「もうベルト閉めたぞ」
「おいおいおいおいおい!!!」
カウントダウンが始まり、奈穂は慌てて良樹の腕を掴んだ。
「わあああああああ!!!」
その瞬間、猛スピードでレールを滑り降りる。
風が髪を撫で、視界がぐるぐる回る中、奈穂はふと気づいた。
(あれ……意外と、楽しい……?)
隣の良樹を見ると、彼は珍しく笑っていた。
「はは、顔すごいことになってるぞ」
「うるさい!!」