[06] 冷たいデート
日曜日。ショッピングモール。
「今日はどこ行く?」
「どこでもいい」
朝から良樹の態度は素っ気なかった。
「えっと…映画でも観る?」
「何でもいい」
「じゃあ、これとかどうかな? ラブストーリーだけど」
「好きにしろ」
(なにこれ、めっちゃ感じ悪い!!)
分かっていた。これは“演技のため”だ。でも、いざこうやって冷たくされると、思ったよりもきつかった。
映画を観ても、カフェに行っても、良樹はスマホを見たり、つまらなそうにしたり。
(……本当に恋人だったら、こんなの絶対イヤだよ)
だけど、それこそが“寂しさ”という感情なのかもしれない。
夕方、公園のベンチで。
「……もういい。分かったよ、こういうのが“寂しさ”なんでしょ?」
奈穂は拗ねるように言った。
「……」
良樹は奈穂をじっと見つめた。そして、ふっと小さく笑った。
「お前、今めちゃくちゃ良い表情してる」
「は?」
「ちゃんと感情が出てる」
「……!」
奈穂はハッとした。
(そうか、これが“自然な感情”なんだ)
今までの演技にはなかったもの。それを、たった数時間で体験してしまった。
「これを演技で出せれば、お前はもっと上手くなる」
「……うん」
その時だった。
「……あれ、滝川?」
不意に声をかけられた。
振り向くと、ミュージカル部の同期である森山丞身(もりやま じょうしん)が立っていた。
「なにしてんの? そっちの人…」
森山は良樹を見て、少し不機嫌そうに言った。
奈穂は一瞬、迷った。そして、視線を横にいる良樹へ向けると、彼は静かに奈穂の肩を引き寄せた。
「恋人だけど?」
「――っ!!」
奈穂の心臓が跳ね上がった。
一方、森山の表情が少しだけ険しくなる。
「……そう」
そのまま森山は去っていったが、奈穂は混乱していた。
(な、なに今の……!)
良樹の手はまだ奈穂の肩にあった。彼は平然としている。
でも、奈穂の鼓動は、どうしようもなく速くなっていた。
――これは“契約”のはずなのに。