[05] 恋人としての演技
翌週の放課後。映画研究会の部室。
「じゃあ、試しにやってみよう」
良樹がカメラをセットする。今日の練習は、**「本当の恋人のように会話するシーン」**だ。
「えーっと、私は帰宅途中、彼氏に電話をかける役…?」
「そう。で、彼氏の方は仕事が忙しくて、冷たい態度を取ってしまう。でも、彼女は“本当は寂しい”って気持ちをうまく言葉にできない。そんなシーンだ」
「ふーん…なるほど」
奈穂はスマホを手に持ち、演技の準備をする。
「…もしもし、今大丈夫?」
「悪い、ちょっと忙しい」
「そっか……あのね、今日ね、学校でちょっと嬉しいことが――」
「今、後にしてくれないか」
「……」
沈黙が流れる。奈穂は台詞を思い出すが、言葉が喉につかえた。
(……うまくいかない)
頭では分かっている。けど、演技になると“寂しさ”が自然に出てこない。
「……カット」
良樹が静かに言った。
「やっぱり、感情が伝わらないな」
「うっ…分かってるよ」
「じゃあ、どうする?」
「え?」
「本当に“寂しい”って感情を体験すれば、演技も変わるかもしれない」
奈穂は良樹の表情を見た。
「……お前、まさか」
「次のデート、俺がわざと冷たくするから、お前はそれをちゃんと“体験”しろ」
「ちょ、ちょっと待って、それ本気?」
「本気だよ」
良樹の目は冗談じゃなかった。
奈穂は息をのむ。
(……これ、絶対ヤバい)
だけど、次のデートの日は、すぐにやってきた。
翌週の放課後。映画研究会の部室。
「じゃあ、試しにやってみよう」
良樹がカメラをセットする。今日の練習は、**「本当の恋人のように会話するシーン」**だ。
「えーっと、私は帰宅途中、彼氏に電話をかける役…?」
「そう。で、彼氏の方は仕事が忙しくて、冷たい態度を取ってしまう。でも、彼女は“本当は寂しい”って気持ちをうまく言葉にできない。そんなシーンだ」
「ふーん…なるほど」
奈穂はスマホを手に持ち、演技の準備をする。
「…もしもし、今大丈夫?」
「悪い、ちょっと忙しい」
「そっか……あのね、今日ね、学校でちょっと嬉しいことが――」
「今、後にしてくれないか」
「……」
沈黙が流れる。奈穂は台詞を思い出すが、言葉が喉につかえた。
(……うまくいかない)
頭では分かっている。けど、演技になると“寂しさ”が自然に出てこない。
「……カット」
良樹が静かに言った。
「やっぱり、感情が伝わらないな」
「うっ…分かってるよ」
「じゃあ、どうする?」
「え?」
「本当に“寂しい”って感情を体験すれば、演技も変わるかもしれない」
奈穂は良樹の表情を見た。
「……お前、まさか」
「次のデート、俺がわざと冷たくするから、お前はそれをちゃんと“体験”しろ」
「ちょ、ちょっと待って、それ本気?」
「本気だよ」
良樹の目は冗談じゃなかった。
奈穂は息をのむ。
(……これ、絶対ヤバい)
だけど、次のデートの日は、すぐにやってきた。



