[18] 1年間の最後のデート
3月。桜が舞い散る季節。
「今日は、最後のデートだな」
久しぶりに会った良樹は、少しだけ疲れた顔をしていた。
映画の上映準備で忙しかったんだろう。
「うん……そうだね」
水族館に入る。
最初にデートをした遊園地よりも、静かで落ち着いた空間。
大きな水槽の前、2人並んで座る。
クラゲがゆらゆらと漂い、光がきらめく。
「……この1年、どうだった?」
「……すごく楽しかったよ」
奈穂は、素直に答えた。
「最初は“契約”のはずだったのにね」
「……ああ」
「でも、今は……なんか、よく分からなくなっちゃった」
「……」
「良樹は?」
「……俺も、同じだよ」
2人の距離は、最初よりもずっと近かった。
「この1年、本当にお前と過ごせてよかった」
「……うん」
「でも……」
「……でも?」
良樹が、静かに手を離す。
「約束は、守らないとな」
奈穂は、ぎゅっと唇を噛みしめた。
(言わなきゃ、終わる)
(でも……言ったら、壊れる)
「……うん、そうだね」
奈穂は、涙がこぼれないように、精一杯笑った。
水槽の中の光が、にじんで見えた。