[10] すれ違いの始まり
夏休みが始まった。
映画の撮影はクライマックスを迎え、奈穂のミュージカル練習も本格化。
お互いの夢に向かって走り続ける中、次第にすれ違いが生まれ始めていた。
「ごめん、今日の撮影、少し遅れそう」
夜、LINEの通知が鳴る。
📱 良樹:分かった。無理するなよ
📱 奈穂:うん、ありがとう
(また、延期になっちゃった)
スマホを見つめながら、奈穂は小さく息を吐く。
最近、良樹と会う機会が減っていた。
映画の撮影もあと少し。
でも、ミュージカルの稽古はもっと厳しくなっていて、なかなか時間が取れない。
(良樹、怒ってないかな)
そんな不安が胸に広がる。
「――奈穂?」
振り向くと、そこには森山丞身がいた。
「お疲れ。さっきのシーン、すごく良かったよ」
「ありがとう……」
「最近、あんまり元気ないよな。何かあった?」
「……ううん、ちょっと疲れてるだけ」
「そう?」
森山は少しだけ口を引き締めた。
「もし、何か悩んでるなら俺にも言えよ」
奈穂は一瞬、迷う。
(良樹には、今の気持ちを話せない)
なぜか分からないけど、それが怖かった。
「……ありがとう」
そう答えるのが、精一杯だった。