[01] 恋人宣言
「えっ、マジで?!」
昼休みの教室。滝川奈穂(たきがわ なお)が口を開いた瞬間、周囲の視線が一斉に集まった。親友の長浜美彩輝(ながはま みさき)が、手に持っていたパンを落としそうになりながら奈穂を見つめる。
「良樹と…つ、付き合うってどういうこと?」
「そういうことになったの」
奈穂は努めて冷静を装ったが、心の中は嵐だった。だって、これは“本当の恋愛”じゃない。ただの契約。
視線の先には、永田良樹(ながた よしき)がいた。映画研究会のエースで、いつも冷静で淡々とした性格。だが、今は少し緊張した表情で奈穂を見ている。
「…そっちも説明してよ、良樹」
美彩輝に詰め寄られ、良樹は少し間を置いてから答えた。
「俺が映画を撮る。主演が必要で、奈穂が適任だと思った」
「え、それってつまり…仕事みたいなもん?」
「いや、違う」
良樹はきっぱりと言い切った。
「俺たちは1年間、本物の恋人として過ごす。それが条件だ」
「え、ちょっと待って! それっておかしくない?」
美彩輝のツッコミに、教室内のざわめきが大きくなる。だが、奈穂はどこか冷静だった。この契約が“偽り”であることは、自分と良樹だけが知っている。
「大丈夫だよ、美彩輝」
奈穂は微笑んでみせた。
「こういうのも、アリでしょ?」