「滝、おはよ」
──昨日の名島くんは、やっぱり幻だったのかもしれない。
「……な、名島くん」
「元気ないね。寝不足?」
ホームルームが始まるまでスマホを見ていたところに、ギリギリに登校してきた名島くんにうしろから声をかけられた。反射的にスマホを伏せる。
急にうしろから声をかけるのはやめてほしいんだけど、と思いながら、「……大丈夫」と小さく返す。
「そういえば今日、放課後委員会あるから忘れないでね」
「あ、えっと……うん」
名島くんは、いつもと変わらなかった。朝の挨拶は席が前後の者同士の最低限の会話。声色もトーンも何ひとつ違わない、毎日学校で見ているままの、完全無欠の名島皐月だ。
昨日のダークな雰囲気はどこにもない。ほんのり感じた圧も、今日は全く感じなかった。気まずさをひとりで抱えているのがバカらしくなるくらいに。
今日に限って委員会があるなんて運が悪い、と私はうしろの席に座る名島くんにはバレないように肩を落とした。
『滝の中で俺ってどう見えてんの?』
その日の授業中、私は ずっと同じことを考えていた。昨日名島くんに言われた言葉が頭の中で何度も再生される。名島くんは私のうしろの席だから、そう頻繁に視線を向けることができなかったけれど、休み時間のたびに名島くんの机には誰かがやってきて話をしているので、彼が人気者であることは改めてよくわかった。
だからこそ、自分の記憶の中にある昨日のできごとがまだ信じられずにいた。
──昨日の名島くんは、やっぱり幻だったのかもしれない。
「……な、名島くん」
「元気ないね。寝不足?」
ホームルームが始まるまでスマホを見ていたところに、ギリギリに登校してきた名島くんにうしろから声をかけられた。反射的にスマホを伏せる。
急にうしろから声をかけるのはやめてほしいんだけど、と思いながら、「……大丈夫」と小さく返す。
「そういえば今日、放課後委員会あるから忘れないでね」
「あ、えっと……うん」
名島くんは、いつもと変わらなかった。朝の挨拶は席が前後の者同士の最低限の会話。声色もトーンも何ひとつ違わない、毎日学校で見ているままの、完全無欠の名島皐月だ。
昨日のダークな雰囲気はどこにもない。ほんのり感じた圧も、今日は全く感じなかった。気まずさをひとりで抱えているのがバカらしくなるくらいに。
今日に限って委員会があるなんて運が悪い、と私はうしろの席に座る名島くんにはバレないように肩を落とした。
『滝の中で俺ってどう見えてんの?』
その日の授業中、私は ずっと同じことを考えていた。昨日名島くんに言われた言葉が頭の中で何度も再生される。名島くんは私のうしろの席だから、そう頻繁に視線を向けることができなかったけれど、休み時間のたびに名島くんの机には誰かがやってきて話をしているので、彼が人気者であることは改めてよくわかった。
だからこそ、自分の記憶の中にある昨日のできごとがまだ信じられずにいた。



