名島くんは自分のことをゲイだと言っていた。彼は、同性を好きになる。性格に難があるから彼女がいないんじゃない。女の子を好きにならないから、「彼女」がいないのだ 。

桃音たちが冗談のつもりで言っていたであろう 「一周回ってホントはゲイとか」なんていう会話は、一周回らなくたって本当だった。

このことは、きっとこの学校の誰も知らない。そんな事実を、私が知ってしまってよかったのだろうか?

「なに。名島のこと好きになったとか言う?」

世良くんが私の顔を(のぞ)き込んでくる。近い、と言って体を少し離した。

どうしてみんなすぐに恋愛に発展させようとするんだろう。ため息が出る。普段関わらない異性の話題を出したり、人より関わりが多い異性がいたりすることなんて、 普通にあるはずなのに。

「 異性」なんて枠組みは、単に性別が異なるだけで、特別なことじゃない。

「そんなわけないじゃん。苦手だって言ったでしょ」

「嫌い同士が好き同士になるのはお決まりのパターンですから」

「すぐそういうふうに(とら)えるのやめて」

「ごめんって、冗談。怒んないでよ」

悪いと思っていなさそうな謝罪に内心腹を立てながら、「もういいよ」と話を終わらせる。

世良くんと接する時間は、ほとんど作業のようなものだ。失礼なことだとわかっていながら、私はそれを続けている。

「てかさ、来週から試験期間じゃん。一緒に勉強しよ」

「ああ……うん」

私の恋人が横原先生だったらいいのに。
そうしたら、もっといろんなことにドキドキしたり、ときめいたりできたのかもしれない。

キスも、それ以上も、心から好きな人とだったら、私だってきっと前向きに考えられるはずなのだ。

乗り気じゃないことに、世良くんはどうして気づいてくれないんだろう。