「滝ってさ、あいつのことちゃんと好き?」

「……え」

「ちゃんと好きで、あいつと付き合ってる?」

自分の気持ちを正直に誰かに言うことができない。空気を読んで、自分に嘘をつく。それがこの高校生活における最適解だと、私はちゃんと知っている。

灰色の雲に覆われた空はまるで、白にも黒にもなれない私のようだった。天候がはっきりしないからと鬱陶しがられ、わかりやすく雨が降るとがっかりされる。雲が晴れる可能性だって同じくらいあるのに、周りも、自分も、マイナスな感情ばかりを結び付けてしまう。

「……好きだけど」

「そうは見えなかった」

「関係ないじゃん」

「今焦ってるのは俺が言ったこと全部正解だから?」

私は緊張していた。これまで必死に隠してきたことが、この瞬間 に、すべて露呈してしまう気がして怖かった。バレてしまったら、それは死と同然だ。

「……ていうか、名島くんこそどうなの?」

「べつに、バラしたいならバラしていいよ」

「はあ……?」

返す言葉が見つからず戸惑う私に彼は言う。強がりなのか本心なのか、わからなかった。

「ねえ滝。人を好きになるって、気持ち悪いこと?」

その日、私は知ってしまった。完全無欠の人気者──名島(なしま)皐月(さつき)の最大の秘密を。



「好きじゃない俺にちょうだいよ、あいつのこと」