「にゃあん」
あめの声に脳が覚醒した。
目を開けた途端にあめのドアップが視界を覆って、反射的に体が跳ねた。僕の胸の上に乗っていたあめは驚いたような表情を見せ、重心がガラリと傾き、慌てて僕が抱き止める。危うくあめを落とすところだった。
「あ、あめ……」
混乱が収まらない僕の目の前のあめは、きゅっと目を細めて頰をペロリと舐めた。くすぐったくて笑いが溢れる。小さな温もりが濁流の如く荒れていた心を凪いだものに変える。
「僕、寝てた?」
「にゃあ」
「そっか、ごめん」
人差し指でそっと撫でた喉がゴロゴロと鳴る。あめは気持ちよさそうだった。
「そろそろ戻ろうか」
「にゃあ」
あめは僕から飛んですたりと地面に着地する。すぐに歩き出そうとしているあめは、顔だけを振り向かせて僕を呼ぶ。
「今行くよ」
立ち上がった瞬間、くしゃみが出た。桜のせいだろうか。いや、花粉症は無いはず。なら、風邪でも引いたかな。
いくら陽気だからと言って室内と同じ服装で眠っては体に悪いか。次からはもう少し暖かい格好で備えようと、そう思いながらあめと共に駆け出した。



