都心から少し離れた静かな高台に、その学園はそびえ立つ。桐ノ宮学園。
創立百年以上の歴史を持ち、日本屈指の名門校である。校門をくぐるだけで、世界の上流に位置する者たちの気品と威厳が感じられる。
学園の正門は重厚な黒鉄の門扉。門の中央には金色の校章が誇らしげに刻まれている。
「橘さん、いつ見ても可愛すぎる」
「全ての仕草が上品だよな」
私が歩けば、誰もが私に視線を向ける。
そう私、橘華凛《たちばなかりん》はこの名門校のお嬢様中のお嬢様である。清楚で上品、成績優秀、先生ウケも抜群の完璧なクラスのマドンナ。誰からも賞賛され、私はそれに自信を持っている。
親から叩き込まれたのは、常に完璧でいること。
どんな場面でも、笑顔を絶やさず、清らかで美しく振る舞うこと。
「曲がったことなど許されない」と言われ、私は一度も反抗することなく、その教えを守り続けてきた。
「すみません、ぶつかってしまって」
階段で足を踏み外した男子生徒が軽くぶつかってきた。
私は彼に微笑みかける。
「いえ、こちらこそ、急いでいたもので」
私は自然な視線で上から下までを値踏みする。整えられていない髪の毛に目元まで伸びた前髪。メガネで顔がはっきり見えないけど、ざっと20点。鼻は高くて、すっとした綺麗な骨格に男らしい体格。ここまで揃っているのにもったいない。宝の持ち腐れだわ。
「気をつけてくださいね」
私は落ち着いて言うと、彼にプリントを渡す。彼はお礼を言ってすぐに去っていった。
神崎煌《かんざきこう》一一私に並ぶ成績優秀な生徒であり、運動神経もいいんだとか。まぁ、あんなモサいのに興味なんてないんだけれど。
***
「ってことがあったんだけど!私にぶつかっておいて微動だにしないなんてありえなくない?」
「出たよ。華凛の自意識過剰」
「私の場合は自意識過剰じゃなくて事実なのよ」
私は放課後に地元の友達とカフェでお茶をしていた。彩花は私が気を使わずに本性を出せる唯一の友達だ。
「おまたせしました。こちらカフェオレになります」
「ありがとうございます」
私が目を合わせ、優しく微笑むと定員さんは少し照たように頷いて戻っていった。
「今の定員かっこよくなかった?それに絶対、私のこと可愛いって思ってたわ」
「本当に華凛の学校の子たちに見せてやりたいよ。クラスのマドンナでお嬢様の華凛が実は毒舌でイケメンが大好きなナルシストだって」
彩花は呆れたようにため息を吐く。何度も聞いたセリフだ。
「顔がいい男は正義よ。見てて癒される」
「でもさ、華凛の学校にもかっこいい子はいっぱいいるでしょ?しかも、お金持ちで将来安泰の男どもが」
「どいつもこいつも明らかに狙ってる感があって嫌なの」
私は優雅にカフェオレを持ち上げ、ひと口含む。
「贅沢な悩みね」
彩花が嫌味っぽく返した。
「そういう点では神崎はいいんだけど」
「好きなの?」
「それは絶対にない」
私はキッパリと断言する。
神崎は、私に特別な関心を持っているようには見えない。誰に対しても平等で優しく、それに立ち振る舞いは洗練されていて、綺麗なのよね。
「華凛って、結局いつも推しどまりだよね」
彩花がクスクスと笑う。
「なんだか、好きになれないのよ......」
好きという感情を持ったことがない。何度か告白されてきたけれど、彼らは私の肩書きしか見ていない。仮に本気で好きだと言われても、それは「表向きの私」に対してであって、本当の私ではない。
「.....私、明日はパーティーの準備があるから、そろそろ帰るわ」
「はいはい、お嬢様」
立ち上がった私を、彩花が呼び止める。
「あんたがいつか恋で頭抱えるところ、楽しみにしてるよ」
「そんなこと、絶対にないわよ」
そう言い切ったのに、カフェを出たあと、彩花の言葉がやけに胸に残った。
創立百年以上の歴史を持ち、日本屈指の名門校である。校門をくぐるだけで、世界の上流に位置する者たちの気品と威厳が感じられる。
学園の正門は重厚な黒鉄の門扉。門の中央には金色の校章が誇らしげに刻まれている。
「橘さん、いつ見ても可愛すぎる」
「全ての仕草が上品だよな」
私が歩けば、誰もが私に視線を向ける。
そう私、橘華凛《たちばなかりん》はこの名門校のお嬢様中のお嬢様である。清楚で上品、成績優秀、先生ウケも抜群の完璧なクラスのマドンナ。誰からも賞賛され、私はそれに自信を持っている。
親から叩き込まれたのは、常に完璧でいること。
どんな場面でも、笑顔を絶やさず、清らかで美しく振る舞うこと。
「曲がったことなど許されない」と言われ、私は一度も反抗することなく、その教えを守り続けてきた。
「すみません、ぶつかってしまって」
階段で足を踏み外した男子生徒が軽くぶつかってきた。
私は彼に微笑みかける。
「いえ、こちらこそ、急いでいたもので」
私は自然な視線で上から下までを値踏みする。整えられていない髪の毛に目元まで伸びた前髪。メガネで顔がはっきり見えないけど、ざっと20点。鼻は高くて、すっとした綺麗な骨格に男らしい体格。ここまで揃っているのにもったいない。宝の持ち腐れだわ。
「気をつけてくださいね」
私は落ち着いて言うと、彼にプリントを渡す。彼はお礼を言ってすぐに去っていった。
神崎煌《かんざきこう》一一私に並ぶ成績優秀な生徒であり、運動神経もいいんだとか。まぁ、あんなモサいのに興味なんてないんだけれど。
***
「ってことがあったんだけど!私にぶつかっておいて微動だにしないなんてありえなくない?」
「出たよ。華凛の自意識過剰」
「私の場合は自意識過剰じゃなくて事実なのよ」
私は放課後に地元の友達とカフェでお茶をしていた。彩花は私が気を使わずに本性を出せる唯一の友達だ。
「おまたせしました。こちらカフェオレになります」
「ありがとうございます」
私が目を合わせ、優しく微笑むと定員さんは少し照たように頷いて戻っていった。
「今の定員かっこよくなかった?それに絶対、私のこと可愛いって思ってたわ」
「本当に華凛の学校の子たちに見せてやりたいよ。クラスのマドンナでお嬢様の華凛が実は毒舌でイケメンが大好きなナルシストだって」
彩花は呆れたようにため息を吐く。何度も聞いたセリフだ。
「顔がいい男は正義よ。見てて癒される」
「でもさ、華凛の学校にもかっこいい子はいっぱいいるでしょ?しかも、お金持ちで将来安泰の男どもが」
「どいつもこいつも明らかに狙ってる感があって嫌なの」
私は優雅にカフェオレを持ち上げ、ひと口含む。
「贅沢な悩みね」
彩花が嫌味っぽく返した。
「そういう点では神崎はいいんだけど」
「好きなの?」
「それは絶対にない」
私はキッパリと断言する。
神崎は、私に特別な関心を持っているようには見えない。誰に対しても平等で優しく、それに立ち振る舞いは洗練されていて、綺麗なのよね。
「華凛って、結局いつも推しどまりだよね」
彩花がクスクスと笑う。
「なんだか、好きになれないのよ......」
好きという感情を持ったことがない。何度か告白されてきたけれど、彼らは私の肩書きしか見ていない。仮に本気で好きだと言われても、それは「表向きの私」に対してであって、本当の私ではない。
「.....私、明日はパーティーの準備があるから、そろそろ帰るわ」
「はいはい、お嬢様」
立ち上がった私を、彩花が呼び止める。
「あんたがいつか恋で頭抱えるところ、楽しみにしてるよ」
「そんなこと、絶対にないわよ」
そう言い切ったのに、カフェを出たあと、彩花の言葉がやけに胸に残った。



