君とそこら辺の石ころについて語り合いたいのだけど




真新しい制服に袖を通して、第一ボタンまでしっかりとしめた。
いや、やっぱり話したいから少しくらいは着崩すそう、と第一ボタンを開けてリボンを少し緩める。
以前まで前髪はトサカのようになっていたが今は下におりている。少しそわそわして指先で整えた。

あたしは、校門をくぐる。

「おはようございます、そこの方、ボタンとリボンちゃんと」

「おっす、東田」

東田は目を見開いた。そしてあたしをしばらく見つめて人差し指をあたしに向ける。

「にしのみや、さん?」

「そうだけど」

東田は少し顔を赤らめて「そっかあ」と笑う。


「よかった、やっとちゃんと顔が見られた」

「なんだそれ」

「サングラスでほとんど顔隠れてたし、あのセンスはちょっと疑うわ」

「今夜、東田の夢にスケバン姿のサングラス女が呪いかけにくるからね、覚えとけよ」

「なにそれ、嬉しい呪い」

「きっしょ」

「口の悪さはご健在でなによりです」

そう言って笑う東田。やっとちゃんと正面から東田の顔が見られた。そのことが嬉しい。
そして東田は妹とのことをきいてこない。ああ、この人らしいなと思った。

「妹ね、あと1ヶ月くらいは病院にいるんだけどリハビリとかも頑張れたらすぐに学校も行けそうだって」

「そっか、よかった」

ほっとしたように息をついた東田。
しばらく正面から東田をみつめていた。男の子の格好の時、やっぱり前髪で目を隠すのもったいない気がするなあと思った。東田があたしの顔をちゃんと見れてよかったと言っていた気持ちが少しだけ分かった気がする。

ーーーーと、誰かに蹴り飛ばされた石ころがあたしの靴にあたって振り返る。

「おはようございます」

律儀にあたしたちに礼をして通り過ぎようとするその人は幾分か先でふと足を止めた。
そしておそるおそる振り返る。

「ん?」

あたしの方に不思議そうに歩いてきたのは、北島えまである。眼鏡を人差し指であげてあたしを見つめた。

「もしや、西之宮さんですか?」

「うわあ、気づくのか、ちょっと嫉妬しちゃうな」

北島えまの言葉に東田がそう言う。

「よっ」

正直、なんと言われるか分からなかった。少しこわかった。なんだ、お前スケバンじゃないんだ、がっかりって、そう言われるかもしれない。
ごくりと唾を飲み込む。

「スケバンやめても、西之宮さんって雰囲気かっこいいですね」

「え」

「どうです?一緒にメタルやりません?」

「いや、やめとく」

顔が近くて、熱量を感じるためあたしは若干引き気味にそういう。

「さすがに軽音学部にそのまま入部をすることは断られたので、いちからメンバー探しなんですよ、お願いです西之宮さん」

「いや、まあ、うん、考えとくけどそれよりも普通に友達になろうよ」

そう言うと、北島えまは「え!」と目を輝かせた。そしてあたしの手を両手で握る。

「いいの!?嬉しい!憧れの人からそう言ってもらえるなんて!今日お昼一緒に食べましょう!」

「え、僕もいい?」

「東田先輩もですか、え〜まあ、う〜ん、いいですよ」

「超絶嫌な反応じゃん」

「なんか楽しそうだね」

ふと声が聞こえて振り向いた先には、爽やかな笑顔を向けてこちらに歩いてきた1人の男。
東田の横に並んだその人に、東田はにこりと笑う。

「あ、おはよう、南崎くん」

「おはよう、東田」

そして南崎はあたしの方をみた。「西之宮さんも、おはよう」と。たいしてあたしがスケバンをやめたことに興味もないようだ。
そしてその瞳には嫉妬も滲んでいる。はーん、こいつあの天使が東田って気づいたな。


「ね、さっきお昼一緒に食べる云々聞こえてきたんだけど、俺もいい?」

にこりと笑ってそう言う南崎。案の定北島えまは難色をしめし、「けっ」と地面の石ころを蹴り飛ばす。

4人とも、転がる石ころの行末を目で追った。

数回バウンドして、また誰かに蹴り飛ばされて、止まって、コロンコロンと左右に揺れる。



そんな石ころの姿をみつめたあと、4人で顔を見合わせて笑った。


「LINEで繋がりましょうよ」

「え、なんで?あたし入らなくていい?」

「西之宮さん入らないと僕はいらないよ、メタル詳しくないし」

「それ言ったらあたしもだよ」

「俺は東田が入るなら入る」

「グループ名『メタル最高』でいいですか?」

「よくないよ、僕は『スケバン最強組』がいい」

「それあたしが恥ずかしいからやめて」

「『東田天使組』は?」

「南崎くん、まじで何言ってんの」

「ごめん」

「おっけー、じゃああたしが決めるわ」