ーーーー「西之宮さんがスケバンじゃなかったら、私ここに立ってなかったよ」
同じクラスの北島えまは、よく見ないと北島えまだと気づかない風貌であたしにそう言った。
嬉しさとなんとも言えない気持ちでまた涙が出そうになったが、彼女の中であたしはドラマででてきていたスケバンヤンキーのような強さをもっていると憧れの眼差しを向けてくれていたのはなんとなく分かっていた。
だから、そのイメージを崩さないように必死に泣くのを堪えながら頷いた。
スケバンじゃなくなっちゃったら、友達になってくれないのかな。そう思った。
でもずっとスケバンでいるということは咲希は永遠に目を覚さないことになる。
そんなのは絶対に嫌。この格好に終わりが来ることをあたしはずっと願っている。
毎日毎日泣きながら神様にお願いしている。『明日は、スケバン姿で咲希におかえりって言わせてください』と。
「この体育館に私のデスボイスめいっぱい響かせるから、ちゃんときいててくださいね」
彼女はその言葉通り凄まじいメタルを体育館に響かせた。彼女が歌い始めてすぐあたしのスマホが揺れた。
あたしは体育館の出入り口のそばにいたため一度外に出た。
電話は母からだった。
ーーーー「咲希の意識が戻った!」
あたしは咄嗟に体育館に振り返る。すぐに走り出さないといけないのは分かっていたのに、自身でもなぜ反対の方を向いてしまったのか分からない。
突然のことで頭がパニックになっていたのかもしれなかった。
咲希が、また目を閉じてしまったらどうしよう。
あたし、この格好でいいんだよね。
強くなんてなれてないけれど、胸を張って咲希におかえりって言えるのかな。
あたしは地面に目を向ける。あ、石ころ。
「東田…」
スマホを取り出してメッセージをうつ。
『妹が、目を覚ました。あたし、ちゃんと強くなれてるかな』
そこまで打って、消した。そして再び親指を動かす。
ーーーー『石ころ、ピンチ』
東田はどうやら体育館で文化祭実行委員の仕事をしていたらしい。
それを抜けてきて、息を切らした状態であたしの前に立つ。ああ、迷惑をかけている。そう思ったけれどやっぱり東田が来てくれたら安心する。
東田が女の子の格好をしていようが、規則通りの格好をしていようがどうだってよかった。だって東田は東田だから。
案の定、あたしは泣いていた。
「東田…」
東田は、一度眉を八の字にして困った顔をしたがすぐに何かを察したのか唇にきゅっと力をいれた。
「行こう!」
あたしの手を掴んで東田は走り始める。『文化祭実行委員』の腕章がゆらゆらと揺れている。
そういえば、前に女の子の格好をしてみたいけれど一歩踏み出せない東田に手を引いてコスメ買いに行ったけ。ああ、東田はもうあたしより随分前に進んでいるんだなあ。
いつも、東田があたしの方を見ていない時、サングラスの隙間からどんなメイクをしているのか、どんな顔色で笑っているのか盗みみていた。
あたしは、一度東田に目を見せたことはないのに。
「ごめんね、東田」
聞こえるか分からない声であたしは呟く。東田はちらりとあたしの方を見た。
「ねえ、妹さんの病院こっちで合ってんの?」
妹が目を覚ましたことなど話していないのに、東田はそう聞いた。あたしは頷く。
あたしの足の先により、止まっていた石ころが蹴り飛ばされて前に進む。
あたしたちを追い越していった石ころ。
数回バウンドして止まって、あたしたちはすぐにそれを追い抜いた。
あたしはにひりと笑う。
「ありがとう!東田!」
次はちゃんと聞こえる声で、あたしは言葉を放った。



