君とそこら辺の石ころについて語り合いたいのだけど



妹は春になっても目を覚さなかった。あたしは高校にスケバン姿で通うことになった。なんかよく分かんないけどオッケーが出た。ほんと、よく分かんないけど。
案の定毎朝校門をくぐれば風紀委員に止められる。
止められれば止められるほど反抗心となんともいえない居心地の良さで刃向かった。そうしていたら仲良くなった。

スケバンとサングラスは最強のヒーロースーツのようなものだった。

正直、人に反抗するというのは苦手というかどちらかといえば面倒くさいと思っていたのが、不思議とこの格好をしていると強くなれる気がした。
おかしいと思うことはおかしいと言える自分になれた。

咲希が力を与えてくれているのかなと思った。そんな力があるなら早く目を覚ませってんだ。

「西之宮さん」

いつのまに仲良くなった東田光影がなんともかわいらしい格好をしてあたしの前に現れる。
正直本当にかわいいと思う。

もっと色んな人にみてもらいたいけれど、東田はまださらけだすのは難しいと言う。『自分はそこら辺に転がる石ころだ』と。


「今日はどうする?」

あたしがそう問うと東田は「うーん」と悩むように小さく唸って「コスメ見たいし、服も見たいしなあ」と髪を耳にかけながらそう言った。少しキュンとした。


「東田がやりたいこと全部やろうよ」

「日が暮れるよ」

「別にいいよ、家に帰りたくないし」

そう言って乗っていたブランコから立ち上がると東田は少し気まずそうに「え?」と声をもらす。
しまった。口が滑った。

でも、東田ならいいかなってそう思った。

ゆっくりと2人で並んで歩きながらぽつぽつと話を始める。

「妹が、去年事故にあって病院にいてさ、まだ目を覚さなくて」

言葉に出してしまうと泣きそうになってしまうため、やっぱり言わなければよかったと少し後悔する。

「家に帰ると、そのことが突きつけられてる気がして嫌なんだよね」

「そう、なんだ」

東田とは放課後や休みの日になるとほとんど一緒に行動していた。楽しくて、自分の中にたまっていく不安や怖さが紛れるような気がした。
東田は会うたびに言う、「君がいなかったらこんなに楽しい日々になってないよ」って。もちろん嬉しいけど、あたしは東田を悲しさを紛らすために利用しているみたいで罪悪感が生まれる。

あたしは、妹が事故に合わなければスケバンにならなかったし、こうやって東田とも友達になっていないだろう。

きっと規則通りの制服を着こなし、普通の学校生活を送っていた。

今が楽しいなんて、思ってしまっていること自体正解なのかどうかも分からない。


「そのスケバンの格好って、妹さんが関係してる?」

東田のその問いにあたしは小さく頷く。

「事故にあう前にね、約束した。2人でスケバンの格好して強くなろうって」

「強く?」

「うん、なんてことないただの姉妹の会話だったの。だけど、なんだかこの格好してないと妹が、咲希が目を覚さない気がして」


東田は「そっか」と視線を下に向ける。
あたしたちの目の前に1つの石ころが落ちていた。
東田はそれをゆっくりと拾い上げる。

「石ころ」

「え?」

東田はあたしに石ころを差し出す。戸惑いながらも手のひらを出すとそこにコロンと小さなそれが落ちた。

「初めて拾い上げてみた、いつもは蹴り飛ばしてるけど」

「なんで?」

「なんかよくみたらかわいい形してない?それ」

そう言われてあたしはそれをまじまじと見つめる。道端に落ちてる石ころなんて拾い上げて観察することなんてなかった。まあ、確かに言われてみれば、うん、かわいい、え、かわいいか?うーん。


「西之宮さんみたいで」

「嬉しくねえ」

思いっきりそれを投げ飛ばすと地面にぶつかりどこかに飛んでしまった。東田は「ああ」と哀れむような声を出す。

「ごめん、西之宮さんに伝えたいことたくさんあるんだけどどう伝えたらいいか分かんないや」

東田は少し声を震わせてそう言った。ちくりと罪悪感が心臓を刺す。本音や、真実を話す時、相手を困らせてしまうリスクを伴う。そんなことは分かっていたはずなのに。

自然と自分の口から「ごめん」と言葉がもれた。