君とそこら辺の石ころについて語り合いたいのだけど






「本当にありがとう、西之宮さん」

「あたしは特に何もやってないけど、その手やめてくんない」

私は人差し指と小指を上に向けた状態で帰る支度を始めている西之宮さんに話しかける。
その大きなサングラスに私の顔がうつった。
そして私の手を軽く払っておろさせると西之宮さんは、口角を上げる。

「ま、よかったじゃん夢叶って。練習は順調?」

「そりゃあもう、と言いたいところですが何せみんな初めてなので喧嘩もしょっちゅうです」

「やっぱやってる曲激しめだと、ギターでぶん殴るくらいのことすんの?」

「いや、そこまではないです。振り上げられるくらいですかね」

「充分こええよ」

そう言ってケラケラ笑う西之宮さん。ちゃんと私の感謝は伝わっているのだろうか。
改めて「本当にありがとうね」と伝えたが西之宮さんはいつもの調子で軽くあしらっている。
そして鞄を持って立ち上がった。

「じゃ、帰るわ」

「お疲れさまっした!」

「うるさ若頭じゃないんだけど」

肩に鞄を担いで颯爽と教室を出ていくスケバンの後ろ姿を眺める。
欲を言えば、もっと西之宮さんのことを知りたいと思うが西之宮さんには薄い透明の壁があるように思えて仕方がなかった。その壁を壊せる人はいるのだろうか、それが私だったら良かったのに。

そう思った瞬間、ああそうか私は西之宮さんと友達になりたかったのかと気づいた。

「北島さあん」

後ろから声をかけられ振り向く。げ、嫌な予感。


「今日掃除当番、変わってくれない?私用事あって」

用事なんて、友達とカラオケ行くからとかそんな理由だろう。きくだけ無駄だ。私は拳をぎゅっと握る。事実、文化祭まで時間がない。当然今日も練習である。

「ごめん、私も用事あって」

「え?」

その「え?」には『お前ごときが私の頼み断れるの?びっくりなんだけど』という感じの言葉が含まれている。こういう人の頼み事はきくのが明日の私のためでもある。無難で、生きていくためにはこういう人に媚をうって自分を確立しないと生きていけないこともある、そんなことは分かっている。

ーーーいや、分かってたまるか。


「いつもいつも私が引き受けると思わないでほしい、death」

「で、デス?」

上の歯と舌を重ねた『ス』であった。それに違和感があったのか彼女は私と同じような口の動きで復唱した。

「今は大事な時期で、やりたいことに集中して、やっと前を向けているの、これ以上わたしを利用するつもりなら墓場いきに加え、耳元でデスボイス響かせてやるけど」

目を大きく開け、顎をくいっとあげる。
かましてやりました、西之宮さん。私、心の中のメタルぶちかましてみました。明日からがこわいです、とても。

「えっ、と、よく分かんないけど北島さんは今日用事あるんだね」

「そうdeath!」

「りょ、りょうかい…あの、北島さんってそういうキャラなんだね。どうしちゃったの」

「私が大人しくて頼み事を断らないキャラだと思い込んだ上でそれを利用するのはかまいません。それぞれに立ち位置があるのだから。だけど、」


私は人差し指と小指を上に立てた。


「かみつかれる覚悟もないやつが、人を利用する立場になるなんて1億年早いねん」


次の日から私は、『隠れメタル情緒不安定エセ関西弁陰キャ』と長ったらしい異名を背負うことになった。
うん、悪くない。