君とそこら辺の石ころについて語り合いたいのだけど




なぜ、西之宮愛希だけあんな格好が許されているのか。瞬く間に色々な噂がまわった。

どこぞのマフィアの娘だとか、ご令嬢だからとか、そんな現実味をおびない噂ばかりであった。

どうやら西之宮さん自身はそれをあまりというか全然気にしていないようである。

今日も今日とてドデカサングラスをかけたスケバン女が僕の前に立ち塞がった。


「西之宮さん」


僕は睨みつけるように西之宮さんを見たが、困惑する様子もない。というかサングラスのせいで表情があまり分からない。
だが、不服そうに口がへの字に曲がっていた。


「髪の毛、サングラス、メイク、制服」


上から下まで1つずつ指摘していく。


「それ毎日言ってて飽きない?」


「毎日言わせないでください。というか西之宮さんは1年生です、僕はあくまでも先輩ですので敬語くらいは使ってください」


「ええ、めんどくさい」


毎日ここで引き留めている僕の方が至極面倒くさい。
僕はため息をついた。
毎朝門で行われる攻防戦は完全に見せ物化としていた。通り過ぎていく生徒たちが「またやってるよ」とクスクス笑いながら僕たちを見ている。

一般生徒の取り締まりが緩くなり、制服を着崩す生徒も多く出てきた。西之宮愛希よりマシだと。

校則崩壊寸前である。


「では、僕への敬語云々はいいので制服を…」

「そもそも風紀委員長って名前なんなの」

西之宮さんは思いつきでぽんぽんと言葉を喋るので僕の「着替えてきてください」という声はいとも簡単にかき消えてしまった。


「東田、光影」


「『みつかげ』か、かっけえ武将みたい」


男らしい、や、かっこいい名前だと小さい頃から言われてきた。見た目に名前が追いついてないまで言われたこともある。それは普通に失礼だと思う。

まあ、そこらへんも慣れてはいるが気持ちのいいものではなかった。名前にたいしてはなんとも思っていないものの、そこにはられる『レッテル』が気に食わないのだ。
『かっこいい』とか『男らしい』とか。

僕の複雑な表情を西之宮さんはサングラスに隠れている瞳で読みとったのか少し気まずそうにへらりと笑った。


「ま、私のこの格好の方がかっこいいけど」


西之宮さんの手のひらが僕の肩をぽんと軽く叩く。


「じゃあ、あたし行くね、あばよ東田」


駆け出していったスケバン女。彼女のつま先にあたって飛んだ小石が数回バウンドしてそこら辺に転がった。

僕はそんな小石を眺めながらボソリと呟いた。



「…せめて「先輩」はつけてくれよ」



僕は今日も今日とてスケバン女を立派に登校させてしまった。