君とそこら辺の石ころについて語り合いたいのだけど



無我夢中で歌った。届くか分からなかったけれど誰かに聴かせたのははじめてだった。正直超楽しかった。
歌い終わって両足をそろえる。
ぐしゃぐしゃになった髪を整えて、地面に落ちた眼鏡を拾う。

蚊の鳴くような声で「ありがとうございました」と言葉を放つ。

顔を上げると4人は唖然としていた。そして最初に両手を控えめに叩き始めたのは水野さん、そして溝口さん、ギターの人、ベースの人の順で小さな拍手がおこる。
息を切らしながら再度お礼を言った。

「正直ほとんど何言ってるか分かんなかったけど、すごいってのは分かったわ」

水野さんがそう言う。部屋で密かに鍛えたデスボイス。聞き取りづらいそれが味があって私は好きだ。そこも、好きだ。

「上手い下手がよく分かんないけどなんか迫力ある、あとめっちゃ頭振ってるのにそれだけ声量でる北島さんすごいね」

溝口さんが絞り出したような褒め言葉を私に放った。

「途中で中指たててたけど…」

ベースの人が小さな声でそう言う。ああ、確かにそれは暴走しすぎだ。我を失っていた気がする。いや、本当の『我』とは先ほどの自分なのだろうか。

「水野、どうするの」

ギターを抱えた1人がそう水野さんに問う。おそらく決定権は水野さんにあるのだろう。
渋い顔をしているベースの人が水野さんに小さな声で耳打ちをしていた。

「今年から軽音学部発足で、初めての文化祭でメタルはやばくない?今後の活動的にさ…」

バッチリ聞こえている。そうだよね、初めての文化祭でメタルはさすがに今後のイメージもあるから難しいよね。検討してくれただけありがたいと思おうと半ば諦め気味に私は水野さんを見つめる。
ーーーと、


「いや、やろう、メタル」

私を含め水野さん以外の4人の「え」と言う声がそこに響き渡る。

「メタルやるってことは、水野歌えないんだよ?」

慌てたように溝口さんが水野さんにそう言う。だが水野さんはなんてことないように鼻で笑った。

「エレキの技術向上のチャンスかなって」

「いやいや、でも、メタルってめちゃくちゃ難しいよ!私ベース高校に入って初めてでただでさえ手探り状態なのに」

ベースの子が半泣きで水野さんにそう言う。
水野さんはぽんっとベースの子の肩に手をおいた。

「上田、あんたならできる」

「だめだこれ、何がなんでもやる気だ…」

恨むようにベースを抱えている上田さんが私の方を見た。その瞳が「どうしてくれるんだ」と言っている。
本当にごめんなさい。

そしてこの場では比較的冷静で静かだった、もう1人のエレキギターの子が口を開いた。

「北島さん」

「はっ、はい」

「本気でやりたいんだよね」

そう問われ、わたしは力強く頷く。西之宮さんに背中を押してもらったのだ。ここまできたら本気でやりたくなってしまった。


「生半可にされるとこっちも困るから、メタルの基礎から私たちに教えて。本番まであと2ヶ月もないわけだし」

「エレキギターさん…」

「楽器名で呼ばないでくれない?山部です」

「山部さん…」


夢が、叶いそう。その喜びが心の底から湧き上がってくる。
水野さんが「よっしゃ」と声を出して両手を叩く。




「一旦、流行りのラブソングはやめてメタルに切り替えるよ!」



その日から、軽音学部の部室からはデスボイスと激しめの楽器の音が響き渡るようになった。