しばらくの沈黙。
溝口さんは複雑な気持ちを表情にだして、ドラムスティックを握りしめたまま他の3人を見つめていた。
同じクラスの根暗女がとんでもない頼み事してきたぞ、と。
最初に口を開いたのは赤色のエレキギターを抱えた女子である。
「いやあ、無理だと思う」
肩にかかっているストラップを外してギターをスタンドにかけたその子は私に近寄ってきた。
そして目の前に立つと私を上から下まで見つめる。
「あなたが、メタルを?」
「は、はい」
「ギャップあるね」
「そう、ですかね」
気まずくて私は視線を逸らしうじうじと自分の指先をいじる。ああ、逃げ出したい。そんなロックじゃない思いが募っていく。仕方がないじゃないか、喋ったことのない人に頼み事なんてしたことないもん。
「無理っていうのはさ、私たちメタルとかやったことないってのが1つと、溝口はクラス同じかもしんないけど私を含めて3人は北島さん?のことよく知らないし」
「いや、正直私も北島さんのことよく知らない」
溝口さんが申し訳なさそうにそう言う。その通りだ。私だって、溝口さんが軽音学部でドラムやってるなんて知らなかった。いや、知ろうとしなかった。
どうせ、私のことなんて分かってくれないだろうと勝手に壁をつくっているのは私だ。
私には秘めてる何かがあるとか、厨二くさいことを言って人との関わりを避けていた。そのツケが今まわってきている。
そんなのこと、私が1番分かっている。
「いきなり押しかけて変な頼み事してすみません、もう大丈夫ですので、では失礼します」
早口でそう言って彼女たちに背中を向ける。
ーーーーが、後ろの襟元をぐいっと掴まれる。
「ぐえ」とカエルのような声が喉から出た。
「あ、ごめん」
「ケホッ、だ、大丈夫です、な、なにか」
時間をとらせてしまったことを怒っているのかもしれないと振り返ってその子を恐る恐る見つめる。
しかし、その顔は不敵な笑みを浮かべていた。
「せめて歌ってみせてよ、北島さんのメタル」
「え」
そうくるとは思わず、みっともなく怖気付いた足が後ろに一歩下がる。夢は語るだけタダだ。でも、人に伝えてしまえば動かざるを得なくなる。それが分かった。
硬直する私の目の前に差し出されたマイク。
「強制じゃないけどさ、よく知らない私たちにメタルしたいなんて頼み事してるぶっ飛びさがあるんだから、最後までぶちかますくらいのロック、見せてほしいんだけど」
挑発するようにそう言って私をみた。
「水野、あんまり北島さんにそんな感じに言わないでよ」
溝口さんがそう言う。水野さん。そう呼ばれたその人は顰めっ面で私の胸にマイクを押し付ける。早く受け取れ、とその顔が言っている。強制ではないと言ったが、ほとんどこれは強制をしているようなものである。
「はっ、そんな感じってどんな感じよ」
「弱い者いじめ、みたいな」
弱い者、か。まあ、ぱっと見はそううつるんだろうな、学校の陽キャが陰キャに絡んでいるみたいな。
まあ、私から陽に飛び込んでいるんだけども。本当にごめんなさい。
水野さんが手からマイクを離したため下に向かうマイク私はそれを慌ててキャッチした。
水野さんはくるりと体の方向をかえて、溝口さんの方を向く。
「弱い者いじめって、何言ってんの溝口」
「だって、北島さんクラスでもずっと教室の端でイヤホンして本読んでるような大人しい人だよ、強いこと言っちゃったら傷ついちゃうかもじゃん」
「そのいつも聴いてる曲が凄まじいメタルで読んでる本がメタルのエッセイとかでもあんた同じこと言えんの、耳に入れてんのも視界に入れてんのも、私以上にドキツイ言葉ばっかだよ、ねえ北島さん」
「おっしゃる通りです」
「ほら」
「なんですでに仲良くなりはじめてんの2人」
苦笑いを浮かべた溝口さん。私は両手でマイクを強く握った。
やるしか、ない。
おそるおそる、マイクを口元に持っていく。
1つにくくっていた髪をほどいた。
両足を少し広げて重心を低く保つ。ヘドバンの準備である。
「ちょ、始まる感じ?」
すっと息を吸った。



