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私は、そこら辺に転がる石ころである。

やりたいこと、願望はたくさんあるのに皆の目が気になってなかなか動き出せず毎日端で縮こまっていた。

高校生になってもどうせ自分はなにも変わらない。自身に期待するのはよそうと思った。
だが、そんな私に一筋の光がさした。

クラスで1人ずつ軽く自己紹介をしてください。そんな憂鬱な時間。どうせ私のことなんて誰も見ていない。

そんな卑屈さを滲ませながらさっさと自己紹介をして、私は同じクラスの人がどんな人かなんて気にせずずっと俯いていた。


「西之宮 愛希です。よろしく」


そんな中、気だるげな低い声が教室に響き私は顔を上げた。立っていたのは一昔前のヤンキーみたいな格好の女子である。

頬まで隠れるサングラス。
彼女は異質そのものだった。

だけど、本人は周りの目など気にする様子もなかった。

私は、彼女に憧れた。

私もあんな風に自分を貫いてみたいってそう思った。


「西之宮さん」


入学式を終え、数ヶ月たった頃ある程度一緒にいる友達を決めてグループなるものが出来始めている。
当然私は出遅れていた。1人には慣れている。

だけど今日、私は勇気を出して憧れの彼女に声をかけた。

お昼休み、席でなにやら真剣にスマホの画面を見ていた西之宮さんは顔を上げる。

「なに」

その大きなサングラスに自分の顔がうつる。変な顔だ。

「お昼、一緒に食べない?」

「いいよ」

即答だった。嬉しくなって私の口角はあがる。
友達になれなくてもいい、だって拒絶されちゃったらこわいもん。
ただ私は西之宮さんのことを尊敬しているファンのようなものだ。


「名前なんだっけ」

購買のパンをひとかじりして私の方を見た西之宮さん。私は口の中に入れたブロッコリーを飲み込んで慌てて口を開く。

「北島えまです」

「ふうん」

しばらくの沈黙。別にいい、憧れの人の隣にいられるんだから。


「なんで私を誘ってくれたの」

「え」

「北島さんってあたしみたいな人1番苦手なのかと思ったから」


私は首を横に振った。眼鏡がその衝撃で少し下にさがったため人差し指で押し上げる。


「とんでもない、私、西之宮さんに憧れてて」

「憧れって、今日初めて喋ったじゃん」

「憧れてたからなかなか話しかけられなかったの」

「あんたもスケバンになりたいってこと?」

そうきかれ、首を横に振った。ますます西之宮さんは怪訝な顔をする。

「じゃあなに」

私は短めの箸をぎゅっと握りしめる。
西之宮さんなら話を聞いてくれるかもしれない。
なぜかそう思った。

「やりたい格好して、周りの目なんて気にしないそのスタンスに、憧れまして」

「…嫌味っぽ」

「ちゃいますちゃいます!」

「関西弁…」

昨日までお笑いの番組をみていた影響がここででた。
西之宮さんが「しかもめっちゃエセ」と呟いて笑う。


「私、いつかやってみたいことがあるんです」

「やってみたいこと?」


私は頷いた。

よく父が言っていたのを思い出す。

夢は、語るだけタダだと。



「これなんですけど」


私はポケットから取り出したスマホの画面を西之宮さんに見せた。