君とそこら辺の石ころについて語り合いたいのだけど



来月は文化祭である。去年同様のんびりとクラスの出し物を手伝って適当に楽しむつもりでいた。

が、

「では、文化祭実行委員の皆様、今年もしっかり盛り上げていけるように協力し合って頑張っていきましょう」

前に立っている3年生の先輩がそう言う。それに答える人たちもやる気のある人たちの集まりであるがゆえ返事もでかい。俺はワンテンポ遅れて小さな声で返事をしておいた。

原田のやつめ。

「南崎くん、よろしくね」

「よろしく」

ナイス提案である。

各クラスから1名選出される文化祭実行委員。原田の予想はこうだった。
風紀委員長をやっている東田は内申点をあげるために色々学校の行事ごとなどにも積極的に参加しているとのこと。そのため、文化祭実行委員にも推薦される可能性が高い。

一か八かで実行委員になってしまえば1ヶ月確実に東田と関わることができるということだ。

2年だけでも5クラスある。5人が選出され部屋に集められており学年ごとに固められているが俺はすぐさま東田の隣に座ることに成功。

正直文化祭のことなんてまともに話をきいてやいなかった。
ここまできたらどうにかして仲良くなりたいと思っているうちに話し合いは終わり、皆帰る準備を始めている。


「各クラスの出し物っていつまでに決めればいいんだっけ」

「え」

隣に座る東田の顔が「お前きいてなかったんかい」という顔になっていた。

「俺さ実行委員、押し付けられてなっちゃって。まだ何が何だかって感じなんだよ。東田は去年も実行委員したんだよね」

「うん、でも僕も去年たいして動けなかったよ。各クラスの出し物は20日までだね。ほら、このプリントの3枚目に書いてる」

東田が俺の方に身を寄せた。ふわりと東田の香りが鼻をくすぐる。香水だろうか。


「南崎くん?」

東田の顔が俺に向いた。

「東田、香水してる?」

ばっ、と東田が俺から距離をとった。苦笑いを浮かべて「なんで?」と俺に問う。この慌てようは…

あれか、女の子の格好をしている時にいつもしている香水を間違えてしてきた、とか。そんな感じなのかな。なにそれかわいい。

と、そこまで考えて飛躍した自分の妄想にドン引きする。


「いや、普通にいい匂いだなと思って」

「風紀委員なのによくないよね、香水なんて」

「別にいいでしょ、でもなんかギャップかも」

「ギャップ…?」

「真面目くんが香水。しかも意外とかわいらしい香りだし」

東田は照れくさそうに首元に手を置いて俺から顔を逸らした。そして鞄をもって立ち上がる。
俺も慌てて鞄を引っ掴み、歩き始めた東田の横に並んだ。


「東田はこれからどっか行くの?」

「なっ、なんで?」

「普通に世間話だよ、東田と友達になりたいんだ」

東田は驚いたように足を止めた。そして俺の方を向く。

「僕と南崎くんが友達?」

「うん」

「なんで?」

「友達になりたいって思うのに理由いる?」

にこりと笑ってそう言うと東田は戸惑ったように俺から顔を逸らしてまた歩き始める。

オレンジ色に照らされた靴箱まできて、クラスが違うためロッカーが隔たれた状態でお互い靴に履き替える。

俺は東田から逃げられないようにロッカーの向こう側に声をかけた。


「東田の趣味ってなに?」

「趣味なんて特にないよ」

「嘘だね」


少しの沈黙がうまれる。東田のことを全て知るには時間がかかることは分かっている。だけど遠回りするのも時間の無駄だ。高校生活なんて、青春なんて、すぐに終わってしまうのだから。


「この前さ」

靴に履き替えた東田が少し先で俺に声をかけた。

「この前」

「うん」

「石ころ…」

「石ころ?」

俺はつま先を数回床にバウンドさせたあと東田の方に駆け寄る。東田から放たれた「石ころ」。この前俺が言ったことを気にしているのだろうか。

俺なんて、そこら辺に転がる石ころだと。

だから、変なレッテルを貼って俺から距離をとらないでほしいって、そういうことだ。


「南崎くんが、僕と同じことを思ってたって知って勝手に嬉しくなった」

「え?」

「自分のことそこら辺の石ころだって、言ったでしょ」

「うん、言ったね」


再び俺たちはゆっくり歩き始める。
体育館の前を通ると部活の音が響いていた。もういいや、今日はサボろう。
俺は体育館を東田とそのまま通り過ぎていく。もう少しこのまま東田と話していたかった。

地面に転がっている小石を足の先にあてると数回跳ねて幾分か先で止まった。


「東田も同じこと思ってたの」

「うん」

「ははっ、石ころなんて、東田はそんなことないよ」

「僕とそんなに話したこともないのになんでそんなこと言い切れるんだよ、南崎くんこそ絶対石ころじゃないよ」

「石ころだよ」

「石ころじゃない」

「石ころだって」

「石ころじゃないってば」

「石ころ戦争するか?」

「石ころ戦争ってなんだよ、初めて聞いた」

「俺も初めて言った」

吹き出すようにお互いが笑い出す。まじでなんだこれ。門の一歩外に出れば東田は「じゃ、僕こっちだから」と手をあげた。いや俺もそっちなんだけど。

これ以上は来るなと線引きをされているみたいだった。今から女の子になるんだろうか。

俺に背中を向ける東田。耐えきれず俺は息を吸う。


「東田!」

東田が驚いたように俺の方を振り返った。


「俺、東田が石ころだろうがなんだろうが、友達になりたいって思ったよ。どんな東田も東田で、俺も俺だから!」


東田は少し不安そうな顔をしたあと、へんてこな笑みを浮かべた。その唇が「ありがとう」と動いた。