君とそこら辺の石ころについて語り合いたいのだけど




脛あたりまで伸びる長いスカート。ブラザーではなく紺色のセーラー服。鶏の頭みたいな形をしている前髪と細かく波打っている長い髪。

唇は真っ赤。おまけに頬まで隠れているドデカサングラスときた。
それが門をくぐり真っ直ぐと校舎の方へと歩いてくる。
僕の体は硬直していた。

そしてスケバンは、指定の緑色スクール鞄ではなく黒いへちゃげた鞄を肩にかけて僕の横を素通りしていく。


「いや、待て待て待て」


僕は急いでスケバン女の前に立ちはだかり両手を広げる。この女を校舎へ入れてしまえば風紀委員は何をしていたのだと僕が怒られてしまう。

スケバン女は顔を傾けて、大きなサングラスを人差し指で軽く押し上げる。


「なんすか」

「君、どこの学校の子?明らかに制服違うしというか時代が違うし、早く自分のところへ戻りなさい」


スケバン女は「何言ってんだこいつ」と言うようなため息をついた。確実にこの場で間違っているのは自分だと自覚がないのか、何なのだこの落ち着きぶりは。

へちゃげた鞄に片手を突っ込み女は何かを取り出した。


「ほれ」


投げ捨てるように僕の手元に置いたそれは生徒手帳である。ここの高校の校章が表紙にしっかりと記されていた。
僕はおそるおそるそれを開いた。


「なぜ」


僕は思わずそう呟く。生徒手帳の表紙の裏には顔写真や名前が書いてある。写真は今僕の目の前にいる女そのものである。なんで写真までサングラスしてるのこの人。
そして、学年は1年生。名前は『西之宮 愛希』と書かれていた。

僕が放心状態になっているとスケバン女は痺れを切らしたのか僕の手から生徒手帳を荒々しく抜き取った。



「じゃ、そういうことなんで」


「待って待って、ダメだよ」


僕はまた横をすり抜けて校舎へ向かおうとする女を必死に止めた。
真っ赤な唇から舌打ちがもれる。僕は負けじと女を睨みつけた。怯んでたまるか。


「許されるわけないでしょう、髪の毛もダメだしメイクしてるし、というかサングラスしてるし、スカート長いし、そもそも制服違うし!」


「何それラップ?」


「話通じないし!」


女は「はは」と軽く笑った。笑い事じゃないのに。


「せめて制服だけでも着替えてきてください。話はそれからです」


長いスカートの裾が風で微々たる動きを見せる。
折り目と折り目の境目に桜の花びらが埋まっていった。


「制服、ないんだよね」

「はあ?」

新入生が何を言ってるのかと顔を歪ませれば女は少し口角をあげた。



「所詮、服なんて布切れじゃん。好きなの着させてよ」


どんな理屈だ。と怒りが込み上げると同時に僕の中の奥底の感情はこの奇想天外なスケバン女によっていとも簡単にかき乱されてしまった。