君とそこら辺の石ころについて語り合いたいのだけど





1年生が入ってきて俺たちは先輩になった。練習終わり、汗を冷ましながらモップがけをするのは唯一誰にも邪魔されずぼうっとできる時間なので好きだ。

なのに、先輩という立場になったせいでその時間はなくなってしまった。


「南崎先輩、モップがけ変わります」


3年生にきついことを言われたのか、若干怯えた声色で俺にそう言った1年生男子。買ったばかりなのかシューズは白く光り輝いている。
ここでの正解は断じて断ることではない。俺はにこりと笑った。


「ありがとう、じゃあお願い」


1年生は俺のそれに安堵したようにモップを受け取る。俺は唯一の時間を奪われたような気分になりながらもにこやかにその場を去った。


「変わるなら先輩がやる前に率先してやれって話だよな」

俺に駆け寄ってきた原田がそう言う。今朝のことを思い出して俺は勝手に気まずくなっていた。
原田が隠し事をしているとは到底思えないが。


「俺が勝手にやってたのに先輩に怒られるのはちょっと可哀想だよな、次から気をつけるよ」


ふと、原田が足を止めた。俺は振り返って原田を見る。少しイラついたように原田は眉間に皺を寄せた。


「原田?」

「お前といると、時々自分が汚く思える」

「は?」

「本心なのかもしれないけど、南崎が言ってるそういうの偽善っぽくて嫌いだ、俺」

「…喧嘩売ってんの」

「イケメンで、爽やかで優しくて、誰からも好かれて、本当は腹ん中ドス黒いくせに綺麗になりきろうとしてるの気持ち悪いよお前」


頭に血が昇るとはこういうことなのだと初めて知った。手に持っていたタオルと水筒が床に転がる。
原田の胸ぐらを掴み上げた。

周りが何事かと野次馬のように寄ってくる。


「…原田こそ隠し事してんじゃないの」

「なんのことだよ」

「何が偽善だよ、その偽善について回ってる金魚のフンが」


原田の拳が思い切り自分の頬に当たった。体がみっともなく床に倒れたが痛さより怒りが勝り俺はすぐに立ち上がって原田に掴み掛かる。

「誰か先生呼んできて!」と叫ぶような声と、「やれやれ」と騒ぎ立てるような野次馬の声が体育館に響き渡っている。

俺は床に倒れた原田に馬乗りになり思い切り、拳を原田の頬に当てた。


「どいつもこいつもうるさいんだよ、勝手にレッテル貼って、勝手に騒ぎ立てたのはお前らじゃん、俺は、」

俺は、

俺って、

ーーー何者なんだろう。


鼻から垂れてきた血を拭おうと振り上げた拳を下におろす。赤く染まっていた。

我にかえって原田をみると原田も鼻血を出している。


「…原田、血出てる」

「いやそれお前のせい」


俺は次の日から「サイコパス南崎」という新たなレッテルを背負うことになってしまった。