君とそこら辺の石ころについて語り合いたいのだけど




「ね、あの人って南崎先輩だよね」

「本当だ、なんで1年のとこにいるの」

「分かんない、誰か探してんのかな。てか生でみると写真よりかっこいいね」


ひそひそとした声はしっかりと自分の耳に届いている。いつどこで俺の写真見たのか問いただしたいところだが我慢した。

俺はあえて聞こえないふりをして廊下を歩いた。
ほんの数ヶ月まで自分も1年生でこの階に毎日来ていたのに学年が上がって来てみると、当然の如く顔ぶれや雰囲気が違う。

俺はあたりを見渡しながら騒がしくなる廊下を歩いた。気持ち猫背にしていたが、やはりバレるものはバレるらしい。
1年5組の前で足を止めた。

このクラスにスケバンがいるらしい。
教室の中をみるが見当たらない。


「あ、ねえ」


ちょうど教室に入ろうとしていた眼鏡の女子に声をかける。手には数冊の本を抱えており、振り返って俺を視界にいれると少し怪訝な顔をされる。

「なんですか」

「あの、スケバンの子ってもう来てたりする?」

俺の言葉に中にいる生徒たちがざわついた。
だが、俺の目の前にいる眼鏡の子はため息をついて眼鏡を押し上げる。

「非常に気に食わないですね」

「え」

「今、あなたが私に話しかけたのって私が眼鏡をかけて本を持っていて従順に自分に従ってくれそうって」


ずいっとその子は身を俺の方に寄せて下から睨みつけてくる。

「そう思ったからですよね」

そんな深いこと考えてねえよ。まあ確かにすぐに質問に答えてくれそうだ、真面目そうだ、と直感で感じたから話しかけたのは違いないが。


「そ、そういうわけじゃないけど」

「よくないですよ、そういうぱっと見の思い込みで軽々しく人に踏み入るの」

「俺、なんで説教されてるの」

「さあ」

「さあって君が」

「で、なんでしたっけスケバン?」

「会話のペースどうなってんの」


俺は若干疲れを滲ませながらそう呟く。かちゃりと目の前の女子がまた眼鏡をあげた。


「西之宮さんはまだ来てませんよ。最近は門で風紀委員の方とお話をしてから登校されるので」


「風紀委員?」


お話というか、絶対止められてんだろそれ。確かによく考えたらあんな格好で登校できるなんておかしな話だ。
仕事ちゃんとしろ風紀委員。


「分かった、ありがとう」


俺は軽くそう言って来た道を戻り始めた。
歩くスピードが早まり、ついには走り始めてしまう。

何をそんなに必死になっているのだろうか、自分でもそう思う。
階段を駆け降りて、靴箱に向かった。

まだ教室に来ていないということは、ここで待っていれば必ずスケバンは来る。

そんな容易な俺の考えはあたった。1年の靴箱にたどり着いたタイミングでスケバンが瞳にうつる。

やっぱ生でみるとパンチあるな、あの格好。風紀委員の壁を突破して颯爽と歩いて来たスケバンは靴から上履きに履きかえている。うわあ、上履き踵へちゃげてる。

「ねえ」

俺はついにスケバンに話しかけた。顔を上げたスケバンは俺の顔を見るなり「あ」と声をあげる。あの道端で声をかけた時のことを覚えているのかもしれない。

そしてドデカサングラスに自分の顔がうつった。


「なんすか」

そうききながらも俺の前では立ち止まらず歩き始めるスケバン。俺は慌ててあとを追った。


「この前のことなんだけど」

「ああ、ナンパしてきたやつ」

わざとなのか声がでかい。案の定周りがざわついた。
俺は慌てて上書きを試みる。

「違うよね、ナンパじゃない、原田はそうだったかもしれないけど俺は違うよ」

「どうでもいいけど、何」

「あのさ、君と一緒にいた子、あの子ってこの学校にいる?名前きいてもいい?」


さあ答えろスケバン。答えてさえくれればお前にもう用はない。