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僕は、そこら辺に転がる石ころである。



桜の花びらがゆらゆらと揺れていき、そのゆく先を目で追った。
運悪くも小さな石ころの上に落ちたそれは、真新しい靴に蹴り飛ばされる。

数回バウンドして自分の足先へと落ちたそれ。

僕は顔を上げて息を吸った。


「新入生の皆さん、おはようございます!風紀委員です。制服を着崩したりしている人がいたら随時注意し、担任の先生へ報告をさせていただきます!」


門をくぐった新入生たちは僕の声を聞いて早々げんなりとした顔を見せて僕の前を通っていく。中には舌打ちをする人だっていた。僕は全くもって悪くないのに。

新入生は昨日入学式を終え、今日から本格的に夢の高校生活が始まる。門をくぐる生徒の多くは少し浮き足立ち、2年生や3年生より早く登校する。

そんな中、僕はおそらく新入生から嫌われる在校生代表になってしまった。


「そこの方、スカートが短いですよ」

「これお姉ちゃんのだからしょうがないんですけど」

もし注意されたら言おうと用意していたほどの即答でそう言い返された。ああ、そうですか、それはしようがないね。


「分かりました。では、その旨を先生に伝えますのでお名前をお願いします」


「うざ、きしょまじで」


名前は『うざきしょまじで』と。んなわけあるかい。
怒りを込めてぶつけられた肩、僕の体がいとも簡単に倒れそうになる。正直メンタルもズタボロだ。誰が好き好んで嫌われ役をするものか。

風紀委員。内申点をあげるために入ったものの、2年生となれば押し付けられるように委員長となり、気づけばここに立っていた。
思わずため息が出る。目の前の小石を軽くつま先でこづく。
もう何も見たくないし、何も言いたくない。
下を向くと、綺麗に着こなされた自分の制服が瞳にうつった。

きちんと結ばれたネクタイ、シワのないスラックス。
胸元に名札がついたブラザー。誰がどう見ても完璧だ。


「ね、さっきの見た?やばくない?」

「やばかった、こっちの方来てたから同じ高校かな?」

「ありえないっしょ、だって制服違うし」

そんな声が聞こえて僕は顔を上げる。何の話をしているか分からなかったが僕は瞬時に2人の女子に声をかけた。鞄の色が濃い緑色のため、1年生である。


「そこの2人、第一ボタンは閉めてください、それからスカートも短いですし、メイクは教室に入る前に落としてください」


案の定2人の顔は「はあ?」と歪んだ。
そして、1人の女子が親指を後ろにある門の方へと向ける。


「だったら今から来るかもしれないあの子の方がやばくない?」

「あの子?」

先ほど『やばい』とか『制服違うし』だの言っていたことと関係しているのだろうか。僕が首を傾げると女子2人はなぜかそこから盛り上がり始めていた。

「あれなんて言うんだっけ。おばあちゃんがよく言ってたんだけど」

「なんだっけ、昔のヤンキーだよね」

「あれでしょ、『月に変わってお仕置きよ』って」

「それたぶん違う」

「ああ、あれかヨーヨー持ってクラブで踊るんだっけ」

「何時代の祭りそれ」


女子2人はそんなことを言いながら校舎の方へと歩き出していく。
引き止めるのも忘れて僕はそんな2人を見つめていた。まじで何言ってんだあの人たち。


「ドカベンじゃなくて、スケドンじゃなくて、ほら、カタカナっぽいやつ」


「もうカタカナ4文字なら『プリクラ』でよくね」


「ね、帰りゲーセンよろ」


「いいね、めでたく高校生って感じでプリとろ」


なんという着地点だ。と心の中で突っ込みながら僕は彼女たちから顔を逸らし、門の方へと目を向ける。
そして驚きのあまりかっぴらいた。

ドカベンでもプリクラでもスケドンでもない。スケドンはニアピンである。
僕は小さな声で呟いた。




「スケバンじゃないか」