***
「ねえ由紀子さん、駅まで一緒に帰ろうよ」
二月下旬。卒業式前の、少ない登校日。みんな、進路に向かってばらばら。
クラスの中で、いちばんと言っていいぐらいに早々と、由紀子は推薦で短大進学を決めていた。
ほんとうは興味のある大学が東京にあったけれど、地元を離れてひとり暮らしなんて姿は想像もできないし、親にも余計な苦労や心配をかけたくなかったので、誰にも告げなかった。
これといった取り柄も特技もないは自分は、このまま地元で進学して就職してたぶん結婚して、平凡に無難に生きていくのだろう。由紀子はそう感じていた。
克哉は、進学とも就職ともまったく言わないので由紀子は聞けないままだった。
克哉の進路先は、なぜかクラスの話題にもなっていない。人一倍お喋りなくせに、自分のことになると秘密主義。
だから、今日は半月ぶりに克哉と会えて、話せて素直に嬉しい。
止まれ、この時間。由紀子は真剣に思う。
学校行事などで盛り上がれる、二年のときに一緒のクラスになりたかった。
一緒に文化祭、したかった。パンフレットの表紙、実はめちゃくちゃがんばった。クラスの出し物の作業と並行して取り組んでいたから、きつかった。あのとき、克哉に励まされたり、褒められたかった。
修学旅行先は、京都だった。京都には恋愛成就で有名な神社があったのに。神頼みでもしておけば、勇気を持てたかもしれないと言い訳。意気地のなさを棚に上げていたことに、由紀子自身は気がついていないふりをした。
進路やら受験やら、三年生は忙しすぎる。
克哉は登校日を間違えて、数日前にも学校に来たらしい。
教室には誰もいないので、仕方なく机やロッカーを整理して帰ったそうだ。由紀子はあわて者の克哉を一笑した。
「数日前って……」
「えーと。二月十四日かな。ねえ、由紀子さんは来ていなかったね」
「その日は、家の近くの図書館に行ったかな。雪が降り出しそうだったから、早めに帰宅した」
「そっか図書館か。そっちに行けばよかったか」
しばらく、克哉は唸りながら頭をかかえていたが、次の話題に移った。
クラスの誰々はどこの学校に行くとか、どうするとか、他愛無い噂話で盛り上がった。
由紀子はゆっくり歩いたつもりだったが、すぐに駅前へ着いてしまった。確か、帰る方向はまったく逆のはず。
「ねえ由紀子さん、駅まで一緒に帰ろうよ」
二月下旬。卒業式前の、少ない登校日。みんな、進路に向かってばらばら。
クラスの中で、いちばんと言っていいぐらいに早々と、由紀子は推薦で短大進学を決めていた。
ほんとうは興味のある大学が東京にあったけれど、地元を離れてひとり暮らしなんて姿は想像もできないし、親にも余計な苦労や心配をかけたくなかったので、誰にも告げなかった。
これといった取り柄も特技もないは自分は、このまま地元で進学して就職してたぶん結婚して、平凡に無難に生きていくのだろう。由紀子はそう感じていた。
克哉は、進学とも就職ともまったく言わないので由紀子は聞けないままだった。
克哉の進路先は、なぜかクラスの話題にもなっていない。人一倍お喋りなくせに、自分のことになると秘密主義。
だから、今日は半月ぶりに克哉と会えて、話せて素直に嬉しい。
止まれ、この時間。由紀子は真剣に思う。
学校行事などで盛り上がれる、二年のときに一緒のクラスになりたかった。
一緒に文化祭、したかった。パンフレットの表紙、実はめちゃくちゃがんばった。クラスの出し物の作業と並行して取り組んでいたから、きつかった。あのとき、克哉に励まされたり、褒められたかった。
修学旅行先は、京都だった。京都には恋愛成就で有名な神社があったのに。神頼みでもしておけば、勇気を持てたかもしれないと言い訳。意気地のなさを棚に上げていたことに、由紀子自身は気がついていないふりをした。
進路やら受験やら、三年生は忙しすぎる。
克哉は登校日を間違えて、数日前にも学校に来たらしい。
教室には誰もいないので、仕方なく机やロッカーを整理して帰ったそうだ。由紀子はあわて者の克哉を一笑した。
「数日前って……」
「えーと。二月十四日かな。ねえ、由紀子さんは来ていなかったね」
「その日は、家の近くの図書館に行ったかな。雪が降り出しそうだったから、早めに帰宅した」
「そっか図書館か。そっちに行けばよかったか」
しばらく、克哉は唸りながら頭をかかえていたが、次の話題に移った。
クラスの誰々はどこの学校に行くとか、どうするとか、他愛無い噂話で盛り上がった。
由紀子はゆっくり歩いたつもりだったが、すぐに駅前へ着いてしまった。確か、帰る方向はまったく逆のはず。



