出逢ったときのことを思い出し、由紀子は笑ってしまった。
 電車の中なので、あわてて本でさっと顔を隠す。

 ……あぶないあぶない。

 話の筋は頭に入ってこなくても、持っていてよかった文庫本。


 仲はよくなったけれど、このあとも、ふたりの距離は変わらなかった。

 クラスメイトからは、実はあいつら、もう結婚しているから名字が一緒なんだとか、思いっきりからかわれたっけ。

 克哉は四月生まれで、高三の新学期が始まる前からいち早く十八歳だったから、それは法的にも許されている、けっこう笑えない冗談だった。由紀子が十七なので、それはなかったが。

 たぶん、初めて逢ったときから、克哉のことがキライではなかった。

 でも、好きとはっきり断言できる確信もなく、これといった進展もなく、かといって後退もなく、時はどんどん流れた。

 臆病だった。傷つきたくなかった。気持ちをはぐらかした。克哉が離れてゆくのが怖かった。

 もしも、時が戻せるのなら、一年前の自分をひどく叱りつけたい。

 どうして、そんなに臆病っだたの、と。