あれから四ヶ月。
退屈な毎日。小学校に戻ったような、幼稚な生活。
流れるままの時間に身を委ねるだけの、冷ややかな自分。
でも、この日々を招いたのは、自分自身。
由紀子は、妙に悟り澄ました自分が、名前も含めて再び全部キライになっていた。
克哉に出逢ってからは、せっかく気に入りかけていたのに。
けれどあの日、雑誌で『情熱マシンガン』を克哉が名乗ってくれているのを見たとき、由紀子は変わった。
由紀子がつけた異名を、今でも使ってくれていることが嬉しかった。
諦められなかった自分を認め、自分の『好き』に向き直すことができた。
克哉の情報はできる限り集め、東京の大学進学のためにせっせと学費を貯めはじめた。
アルバイト代、このサンダル以外には全額貯めている。もちろん、受験勉強だって再開。
たくらんでいることが、ある。
人に黙って夢を持ち続けることは苦しいけれど、ちょっとくすぐったいようなひそやかな愉しみがある。
今日こそ、告白しよう。
私が東京に行くと言ったら、克哉はどんな顔をするだろうか。
克哉の近くに行きたい、大学でデザインの勉強をしたい、と。
今さらでもいい。笑われてもいい。勘違いだと思われてもいい。
このまま終わらせたくない。
まずは一方的に連絡を遮断したことを謝りたい。話したいこともたくさんある。
乗り換えのアナウンスを車内に響かせ、速度を緩めた電車はブレーキを効かせて終点の駅にゆっくりと入る。
持っていた文庫本をバッグの中にしまう。視線を落としたとき、その姿が目に映った。
「……克哉だ」
由紀子は反対側のホームに、偶然克哉の姿を見つけた。
姿勢のいい歩き方は前と変わらない。髪をだいぶ明るく染めている。白い長袖の開襟シャツに、濃い青のスリムなジーンズ。何気ないよくある組み合わせだけれど、文句なしに似合う。そして、目立っている。
そのとき、克哉が由紀子に向かって笑顔で手を振ってきた。
あいつも気がついてくれた。
視線が絡まる。
驚いてしまうほど、由紀子の心は高鳴った。
暑さのせいではない。額に、手のひらに、うっすらと汗をかいた。
駅で待ち合わせをしていた聡美に『遅れそうだから、先に行ってて』と急いで連絡した。
ごめん。ほんとうにごめん。友だち甲斐のない私でごめん。
あとで必ず報告するから、と心で謝って、ちゃっかり携帯の電源を切る。
これで、聡美から連絡が来ても分からなかった、で白を切れる。心配をかけてしまうかもしれないけれど。
足の痛みは、もう感じない。
電車のドアが開くと、由紀子はいちばんに電車を降り、最初の一歩を力強く踏み出した。
雑誌で見た、克哉の笑顔ひとつで変われた、ほんとうの『情熱マシンガン』は、自分だったのかもしれない。
退屈な毎日。小学校に戻ったような、幼稚な生活。
流れるままの時間に身を委ねるだけの、冷ややかな自分。
でも、この日々を招いたのは、自分自身。
由紀子は、妙に悟り澄ました自分が、名前も含めて再び全部キライになっていた。
克哉に出逢ってからは、せっかく気に入りかけていたのに。
けれどあの日、雑誌で『情熱マシンガン』を克哉が名乗ってくれているのを見たとき、由紀子は変わった。
由紀子がつけた異名を、今でも使ってくれていることが嬉しかった。
諦められなかった自分を認め、自分の『好き』に向き直すことができた。
克哉の情報はできる限り集め、東京の大学進学のためにせっせと学費を貯めはじめた。
アルバイト代、このサンダル以外には全額貯めている。もちろん、受験勉強だって再開。
たくらんでいることが、ある。
人に黙って夢を持ち続けることは苦しいけれど、ちょっとくすぐったいようなひそやかな愉しみがある。
今日こそ、告白しよう。
私が東京に行くと言ったら、克哉はどんな顔をするだろうか。
克哉の近くに行きたい、大学でデザインの勉強をしたい、と。
今さらでもいい。笑われてもいい。勘違いだと思われてもいい。
このまま終わらせたくない。
まずは一方的に連絡を遮断したことを謝りたい。話したいこともたくさんある。
乗り換えのアナウンスを車内に響かせ、速度を緩めた電車はブレーキを効かせて終点の駅にゆっくりと入る。
持っていた文庫本をバッグの中にしまう。視線を落としたとき、その姿が目に映った。
「……克哉だ」
由紀子は反対側のホームに、偶然克哉の姿を見つけた。
姿勢のいい歩き方は前と変わらない。髪をだいぶ明るく染めている。白い長袖の開襟シャツに、濃い青のスリムなジーンズ。何気ないよくある組み合わせだけれど、文句なしに似合う。そして、目立っている。
そのとき、克哉が由紀子に向かって笑顔で手を振ってきた。
あいつも気がついてくれた。
視線が絡まる。
驚いてしまうほど、由紀子の心は高鳴った。
暑さのせいではない。額に、手のひらに、うっすらと汗をかいた。
駅で待ち合わせをしていた聡美に『遅れそうだから、先に行ってて』と急いで連絡した。
ごめん。ほんとうにごめん。友だち甲斐のない私でごめん。
あとで必ず報告するから、と心で謝って、ちゃっかり携帯の電源を切る。
これで、聡美から連絡が来ても分からなかった、で白を切れる。心配をかけてしまうかもしれないけれど。
足の痛みは、もう感じない。
電車のドアが開くと、由紀子はいちばんに電車を降り、最初の一歩を力強く踏み出した。
雑誌で見た、克哉の笑顔ひとつで変われた、ほんとうの『情熱マシンガン』は、自分だったのかもしれない。



