翌日。

「――――ってことがあったのよ。どう思う?」

 昼休み。
 コンビニ弁当をつつきながら、私は昨夜の出来事を佳乃に話して聞かせた。時に、私の拙い画力で以って、ノートに風景なんかを描きながら。
 彼女は、私の過去や、持病のナルコレプシーについて理解のある人間だ。

「どうも何も、それって本当に明晰夢だったわけ?」

 教科書をとんと揃えながら、佳乃が尋ねる。
 机を挟んだ向かいにいる私は、未だ昼食中だというのに。相変わらず抜け目ないと言うか、気が早いと言うか。

「本当にって、どういうこと?」

「いやほら、陽和の話だとさ、それ特にアクションは起こしてないんじゃないの? 何かした?」

「え、だから、動こうとしたよ?」

「動いた、じゃないんでしょ? どうなのかな、それ」

「でも夢の中で『これ夢だ』って分かったし」

「私だってあるよ、それぐらい。夢なんじゃないかなーってやつ。他の子にも聞いてみな? 何人か頷くと思うよ」

「えー、そうかなぁ……」

 それほど特別って訳でもないのだろうか。
 と、五時間目の授業で使う物を一通り揃えた佳乃が席を立った。お手洗いついでに、ジュースを買いに行くとのことだ。

「何かいる?」

「あー。じゃあ珈琲」

「ブラックね。お金あとでいいから」

「ありがと。私も早く食べないと」

 佳乃にお礼を言うと、私はまたお弁当と睨めっこ。箸を持ち直し、すっかり固まった白米に突き立てようとした、そんな時だった。
 扉の前まで歩いていた佳乃が「あっ」と言って振り返った。

「何? どしたの?」

「いや、さっきの話なんだけどさ」

 言いながら、佳乃は机上に置かれた私のスマホを指さした。

「トリニティカレッジ図書館、って調べてみな。多分、似たような風景が出ると思う」

「え……?」

 答えるが早いか、佳乃はそのままひらりと手を振ると、教室から出ていってしまった。
 トリニティカレッジ図書館……聞いたことはないと思う。どこかで聞いていたとしても、ピンと来ないのなら風景までは知り得ない証拠だ。
 けれど――何だろう。不思議と、耳に新しくない響きだ。聞いても風景は浮かばないのに、言葉だけは何となく聞いたことがあるような気がする。モヤモヤと不思議な感覚だ。不快感、と言い換えたって良いかもしれない。
 それを払拭したくて、私は携帯を手に取ると、そのワードをネット検索にかけた。
 表示された画像の数々からそれを見つけた時、私は聊か、後悔をしてしまいそうになった。

「こ、これ……」

 王城のような外観、その内部を埋め尽くす数多の本棚――といった画像を幾らか見送り、やがて見えてきた一枚の画像。
 真紅のカーペットこそないものの、すっと真っ直ぐ抜ける通路の脇に本棚、高い天井といった様はまさしく、私が夢で見たあの光景と、似ているという言葉では足りないくらいに、そっくりだったのだ。