「…俺、先輩に“バカ”って言われんの好きなんです」


腰に回された長い腕に引き寄せられ、咄嗟に目の前の胸板をもう片方の手で押し返した。


「っ、はあ?」


なんか…皐月が、変だ。
いつも変だけど、なんか今日はもっとおかしい。
ニヤついてるわけでも、俺の反応を見て面白がっているわけでもなく、ただ本音をこぼしているような。
注がれる視線の温度が高く感じるのは、きっと気のせいじゃない。


「もっとバカなことしたら、そうやって顔を真っ赤にして、俺だけを見つめて怒ってくれますか?」


白くて細い指が、するりと頬を撫でる。
長いまつ毛と二重の奥が至近距離。
さらりと落ちる髪が耳にかかって。

息を、呑んだ。


「好きです、木瀬先輩。ずっと…ずっと、あなたにこうして触れてみたかった」


ぎゅっ、と心臓を鷲掴みにされたように、鼓動が跳ねる。
下がった目尻と、弧を描く口の端。
纏う空気さえもが、いつもより柔らかくて。
その言葉が冗談ではない。
そう実感するには、十分すぎた。
今、皐月はなんて言った…?
…俺が、好き?
皐月が、俺のことを…恋愛的な意味で…?


「っ…」