校門をくぐり、校舎の影に皐月を引っ張った。
ちらりと周りを見渡して人気がないのを確認した後、ネクタイに指を引っ掛けて外し、そのまま皐月の首元に巻き付ける。


「ちょ、ちょっと先輩?何して…」

「うるさい、動くな。人のってやったことないから難しいんだよ」


ほんの少しだけ背伸びをして、いつもの動作を思い出しながら指を動かす。
指先が襟に触れた途端、昨日抱きしめられたときのシトラスがまた鼻腔をくすぐった。
動きが鈍くなるのを嫌でも感じてしまったが、すぐに思考を切り替えて集中する。
慣れない手つきで数分ぐらいもたついたけれど、皐月はその間動かなかないでいくれた。
そのおかげか、結構上手くいった気がする。


「…よし。これでいいな」

時間はかかったものの、初めてにしては上出来だろう。


「これなら先生にもわかんないだろ。今日はとりあえずそれ付けとけ」


さっきまで自分の首にあったネクタイを指さし、ぽかんとしている皐月を見据える。
ネクタイを貸すなんて初めてのことだから落ち着かないけれど、こればっかりは仕方ない。


「だから、バカ正直に木瀬先輩に借りました〜とか言うなよ?俺が怒られるから」

「…っ、はい。ありがとうございます、先輩」


目じりを下げる皐月が、ネクタイをぎゅっとうれしそに握りしめた。
こいつにも可愛いとこあるんだな…って、何考えてるんだ俺は。
その姿に、不覚にも可愛いと思ってしまってブンブンと首を振る。