「…一応聞いていいか」
「はい」
「なぜネクタイをしていない?」
「あ〜…今朝、他校の女子に盗られちゃって」
5月上旬の清々しい朝。
それは、校門をくぐる前の横断歩道を歩いている途中のこと。
春の陽気に包まれた青空の下で、ばったり会った不真面目な後輩を問い詰めていた。
「盗られたって…」
「本当ですよ?今までだって、ネクタイしてこなかったことないじゃないですか」
「それが普通なんだよ。…っていうか、なんで盗られたままにしてんだ」
「めんどくさくなっちゃったんで放置しました」
「………」
この青空にも負けないほどに清々しい答えが返ってきて、思わず絶句する。
なんとなく勘づいていたが、こいつはかなりの横着者だ。
取り返すのが面倒だからと、普通放置しておくか?
きっともう校則違反なんか気にしちゃいないんだろうな。
このままだと、皐月はいつものごとく先生に呼び出される羽目になるが、今日の件に至っては皐月は悪くない…たぶん。
しかし、仮に皐月が事実を言っても先生は信じないだろう。
日頃の行いというやつだ。
それはちょっと…まぁ、なんというか…。
「これ、やっぱり先生に突っつかれますかね?」
「…やる」
「え?」

