「〜っおい!いい加減離せよ…!お前、どんだけ俺をおちょくれば気が済む───」

「好きなんです」

「……は?」


今まで黙りこくっていた皐月が、俺の言葉を遮ってまでそう言った。
視線を上げれば、目元を細めて微笑んでいる端正な顔がそにあって。


「…って、言ったら驚きますか?」


なんとも憎たらしいこの後輩に、鉄拳をお見舞いしてやった。


「いったぁ〜!なにもゲンコツしなくたっていいでしょ。可愛い後輩にたんこぶできたらどうしてくれるんですか」


ようやく皐月の腕の中から解放され、一気に脱力感が襲ってくる。
ジロリと皐月を睨みつけてやると、目をうるうるさせながら文句を垂れていた。


「なーにが可愛い後輩だ。クソ生意気な後輩の間違いだろ。俺はもう帰る」

「あ、俺も帰ります。途中までご一緒させてください」

「…勝手にしてくれ」

「へへ、やった」

「はぁ…」


はにかむ皐月を見やり、ため息をひとつ。
何がそんなに嬉しいんだかわからないまま、今日の風紀委員としての仕事を全うしたとみなして帰宅した。
シトラスの香りが服に染み付いたような気がして、その帰り道はなんとなく歩幅を合わせにくかった。