そしたら
「他の風紀委員会は全員女子なんだ。皐月のファンに私物が盗まれる心配がある。でも、木瀬ならそんな心配いらないだろ?」
だとさ。
なんかそれおかしくないか?
何が悲しくて、放課後の生徒指導室でずっとこいつの来訪を待ってなきゃならないんだ。
「…じゃ、俺は帰るから」
バカバカしいにも程がある。
来年は絶対に風紀委員会なんかには入らないと、そう心に決めた。
とりあえず今年は我慢するけど、もうこんなのはゴメンだ。
カバンを手に取り、皐月を横切って部屋を出ようとしたそのとき。
「待って、先輩」
急に長い腕が伸びてきたと思ったら、驚く間もなく皐月の胸の中にすっぽり収まってしまった。
ふわっとシトラスの香りが鼻腔をくすぐる。
サラリとした髪の毛が顔にかかって、少しくすぐったい。
「……は?な、なに…?」
今、俺は何をしてる?
どうして皐月なんかに抱きしめられてるんだ…?
俺が転びそうになったのを助けた…わけでもないよな?
じゃあ、こいつは…皐月は、何を思ってこうしてるんだよ?
どれだけ頭をフル回転させても、この状況が理解できない。
それどころか、頭にはクエスチョンマークが浮かぶばかり。
皐月は皐月で、一言も発さずに俺をたたじぃっと見つめているだけ。
一体こいつは何がしたいんだ?

