「…皐月、俺───」
「あのっ、すみません!!」
一歩踏み出そうとしたとき、突如として現れた女子高生に遮られた。
彼女の手には、1本のネクタイが握られていて。
「皐月さん…ですよね?今朝、ネクタイを盗んでしまった者です。これ、返します!ほんとにすみませんでした!!」
皐月に勢いよくそのネクタイを押し付けたかと思えば、謝りながら走り去っていった。
…なんだったんだ?今のは…。
一瞬の出来事だったが、あまりにも一瞬のことすぎて呆然としてしまう。
「あー…今朝、ネクタイ盗っていった子です。反省してくれたみたいでよかった」
「あぁ…なんかそんなこと言ってたな」
今日は色々ありすぎて、そんなのとうに忘れていた。
…それはさておき、どうしようか。
さっきまでの良さげな雰囲気は、あの女子高生がかっさらっていった。
ここからまたあのに雰囲気に戻すのはさすがに難しい。
…なにか、何かないだろうか。
この、なんとも言えない空気感を変えるものが…。
「…先輩、さっきなんか言いかけてませんでした?」
───あった
ちょうど今、皐月が手にしているもの。
「…それ、結んでやる。ちょっとこっち来い」
そう言いながら、皐月を電柱の影に引っ張った。
ふわりと香るシトラスにはまだ慣れなくて、自然と鼓動が早くなる。
でも、もう後には引けなない。

