この後輩、惑わし上手


「覚えてますか?初めて俺が生徒指導室に、行った日。没収されたゆるゆるカーディガンを取りに行ったら、遅くまで待ってた木瀬先輩が真っ赤な顔して怒ったいたあの日を」


……覚えてる。
あんなの、忘れるわけがない。
見目麗しいと噂の1年生が、明らかに校則違反なゆるゆるのダボッとカーディガンを着てきた。
そのおかげで、風紀委員の俺がそのカーディガンを預かることになり。
「SHRが終わったらさっさと取りに来るだろう」と、甘く見ていた。
放課後、あの埃っぽい生徒指導室で待つことなんと2時間30分。


『…え、先輩って風紀委員のひと?もしかして、ずっとここで待ってたんですか?』



“信じられない”とでも言いたげな顔をして入ってきたのは、他でもない皐月だった。


『…お前が1年の皐月湊か。こんな時間になるまで取りに来ないとは、いい度胸してるな?』


たしか、そんなことを言ってキレたのを覚えている。
カーディガンの1着や2着くらい放って置いておけば良かったと気づいたのは、つい最近のこと。
そしてご存知の通り、皐月はその日から毎日のように校則を破っては生徒指導室にやってきた。


「話したこともない俺の事を信じて、ずっと待っててくれました。理由がなくたっていいんです。俺にはそれが、凄く嬉しかったから」

「…そんなことで?」

「“そんなこと”じゃありません。俺はこういう見た目してるし、その上この態度だし、男…特に先輩からは、あんまりよく思われないんです。まぁ、当然のことですよね」


自嘲気味の乾いた笑顔。
皐月にあまりにも似合わなすぎて、口を開いてはきゅっと結んだ。