こっちはそんなつもりじゃなかったのに、そう言われてしまったら意識せざるを得なくなる。
ぱっと手を離して顔を逸らすけれど、触れていたところが熱を持って仕方ない。
「あー、せっかく腕をとってくれたのに。なんで離しちゃうんですか?」
「っだから、いちいちそーゆこと言うなバカ!こっちは反応に困んだよ…!」
ここを廊下だということも忘れて、つい大声を出してしまった。
…最悪。
仮にも俺は先輩なのに、こんなにも余裕のない姿を見せるなんて。
皐月といると、自分が自分を保てない。
だから…困るんだ。
「…そう。困るんだ。だから、言うの控えてくれねぇ?」
ここはもう正直に言うしかないと思って、まっすぐ皐月の目を見て伝えた。
…なのに。
「嫌です」
それをはっきりと口にした皐月は、この雰囲気に似つかわしくない満面の笑みを浮かべた。
それがにわかに信じがたくて、思わず瞬き。
…今こいつ、「嫌です」って言った?
こんな、悪びれもない顔で?え…聞き間違い…?
もう一度目をこすりながら皐月を見るものの、やっぱりにこにこ笑顔の皐月。
その笑顔が、やけに眩しく感じてくらっとする。
ますます惑わされていく俺は、皐月の真意がわからないまま、気づけば下駄箱に着いていて。
「木瀬先輩、いつまでそんな呆けた顔してるんですか。そろそろなんか喋ってくださいよ」
スニーカーに履き替えた皐月が、真隣で呟く。
耳元にかかる息が肌を撫でた。

