なぜこうなったのか、全く理解できない。
ただわかるのは、俺の脳内を占める存在が90%皐月になってしまったということだけ。
残りの10%は、自分の首にネクタイが無いことをどう先生に説明するか。
逆に言うと、それ以外は全て皐月に持ってかれているということ。
…本当なんなんだよもう。
こんな日が来るなんて、思いもしなかった。
まさか、皐月が俺を好き…だったなんて。


「っ…」


ダメだ、本当にダメだ。
勝手に思い出して、1人で勝手に恥ずかしくなって。
さっきからずっと、そんなことの繰り返し。


『好きです、木瀬先輩。ずっと…ずっと、あなたにこうして触れてみたかった』


そう言った皐月の表情、声、仕草が脳裏によぎる度、たまらなくなる。
あいつは、俺にどうして欲しいのか。
「好き」だとは言われたが、「付き合って」とは言われていない。
そしてまた、俺自身の皐月に対する気持ちさえもが行方不明である。
あのとき、何か言っていればこんなに悩むこともなかったのだろうか。
答えを出して欲しいとも言われてないが、出そうと思ってもそう簡単に出せそうにない。
生憎、恋愛経験はゼロに等しい。
告白されたことも、人を好きになったこともない。
そんな俺に、後輩で、しかも男から告白されるなんて思いもしなかったことが起きている。
そもそも、なぜ俺のことを好きなのかという疑問もある。